「罪を行い終つてから間がないとき」および「誰何されて逃走しようとするとき」にあたるとされた事例
昭和42年9月13日最高裁判所第三小法廷決定
裁判要旨
一、爆発物取締罰則第一条に「人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ」とあるのは、必ずしも、人の身体・財産を害することが爆発物使用の唯一、排他的な動機であることを要求したものではない。
二、犯罪の発生後直ちに現場に急行した警察官が、ひきつづき犯人を捜索のうえ、犯行後四、五十分を経過した頃、現場から約一、一〇〇メートルの場所で逮捕行為を開始したとき(原判文参照)は、刑訴法第二一二条第二項にいう「罪を行い終つてから間がないとき」にあたり、また、警察官が犯人と思われる者を懐中電灯で照らし、同人に向つて警笛を鳴らしたのに対し、相手方がこれによつて警察官と知つて逃走しようとしたときは、口頭で「たれか」と問わないまでも、同条項第四号にいう「誰何されて逃走しようとするとき」にあたる。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/749/050749_hanrei.pdf
第二点について。
所論は、憲法三一条違反をいうけれども、その実質は爆発物取締罰則一条の解釈、適用に関する単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない(なお、原判決が、爆発物取締罰則一条に「人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的ヲ以テ」とあるのは、必ずしも、人の身体・財産を害することが爆発物使用の唯一、排他的な動機であることを要求したものではないとした判断は、相当である。)。
第四点について。
所論は、原判決が刑訴法二一二条二項の規定の解釈を誤り、いわゆる準現行犯の要件を不当に緩和したものであるとし、これを前提として、原判決が憲法三一条、三三条に違反するというのである。しかし、原判決が、本件の逮捕が行なわれた当時の具体的状況(原判文参照)のもとにおいて、本件の逮捕が刑訴法二一二条二項にいう「罪を行い終つてから間がないとき」にあたるものとし、また、本件のように、警察官が犯人と思われる者達を懐中電灯で照らし、同人らに向つて警笛を鳴らしたのに対し、相手方がこれによつて警察官と知つて逃走しようとしたときは、口頭で「たれか」と問わないでも、同条項四号にいう「誰何されて逃走しようとするとき」にあたるとした判断は、相当であつて、同条項を不当に拡張解釈したものということはできない。したがつて、所論違憲の主張は、前提を欠き、適法な上告理由に当らない。
第五点について。
所論は、被告人等は単に正当な集団示威行為を行なつたにすぎないものであるとし、これを前提として、原判決が国民の抵抗権を保障した憲法一二条、二一条に違反するというのである。しかし、原判決は、被告人等が旧A工廠の一部の工場、機械を損壊する目的で爆発物を使用し、また、B方居宅および車庫に放火する意思で火炎瓶を投入した事実を認定しているのであるから、所論は、原判示にそわない事実を前提として違憲をいうものであつて、適法な上告理由に当らない。