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何時でも返還する特約のある農地賃貸借と民法第六一七条第二項の適用

昭和38年12月24日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
何時でも貸主の請求に応じ賃貸農地の返還をするなどの定めで農地を耕作させるに至つた場合でも、当時施行の農地調整法第九条第四項により右約定は存しないものとみなされるから、解約申入に民法第六一七条第二項の適用がある。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/139/066139_hanrei.pdf

農地に関する権利移動の制限を規定する農地法三条一項の但書がその掲げる各号の一に該当する場合を例外として、これに知事の許可を要しない旨を定めていることは所論のとおりであり、同法三六条の規定によつて農地についての所有権その他の使用収益権が設定され又は移転される場合が右三条一項但書の第一号に規定されていることも所論のとおりであるが、右三六条は国が買収した農地等を売り渡す場合の規定であつて、本件の如く私人相互間で行われる権利変動には適用のないものであるから、同条一項一号所定の世帯員の死亡又は農地法二条六項四号所定の事由を云々して原判決の判断を非難する点は、すべて採用の余地ないものというべく、所論(5)の論旨中、Dの応召の事実を認める以上はEが雇傭労務者であつて耕作権を有しないことを判断すべきであるとの所論は、その実質、正清が賃借権に基づいて本件農地を耕作していたとの原審認定と異る事実を主張して原判決の判断を論難するに帰着し、採用できない。

原判決(一審判決引用)は、同判示認定の事情に徴し、本件農地の賃貸借は一時賃貸借(当時施行の農地調整法九条二項但書参照)をなしたものとはいえないと判定した上、所論「何時でも請求に応じ農地を返還する」旨の約定は、本件農地の如き水稲栽培の目的従つて収穫季節ある土地の賃貸借においては賃借人に不利なものというべきであるから、当時施行の農地調整法九条四項により該約定は存しないものとみなされるとし、上告人の返還請求すなわち解約申入は民法六一七条二項により収穫季節後、次の耕作着手前になしたもの以外はその効力がない旨判示しており、右認定判断は、すべて肯認できる。

本件賃貸借につき「何時でもその請求に応じ農地の返還をするなどの定めで右農地を耕作させるに至つたものである」との認定をした以上は、契約の本質ないし条理に照し、特段の事由による一時賃貸借とみるべきであつて、前示のような原審判断には至るべきでないとする所論は、独自の見解にすぎず、採用できない。

又、論旨は、上告人の解約申入は再三再四なされ収穫季節後、次の耕作着手前にも勿論なされているとして、この点に関する審理不尽をいうが、右は原審において主張のない事項であり、従つて原判決に所論違法はない。

 

民法

(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
第六百十七条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 一年
二 建物の賃貸借 三箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 一日
2 収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節の後次の耕作に着手する前に、解約の申入れをしなければならない。