不適法なことが明らかであって当事者の訴訟活動により適法とすることが全く期待できない訴えにつき口頭弁論を経ずに訴えを却下するか又は却下判決に対する控訴を棄却する場合における被告に対する訴状、控訴状又は判決正本の送達の要否
平成8年5月28日最高裁判所第三小法廷判決
裁判要旨
不適法なことが明らかであって当事者の訴訟活動により適法とすることが全く期待できない訴えにつき、口頭弁論を経ずに、訴えを却下するか、又は却下判決に対する控訴を棄却する場合には、訴状において被告とされている者に対し訴状、控訴状又は判決正本を送達することを要しない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/130/076130_hanrei.pdf
所論は、要するに、第一審裁判所は、本件訴状を被告に送達しないまま、口頭弁論を経ずに訴えを却下し、その判決正本をも被告に送達せず、また、原審裁判所も、同様口頭弁論を経ずに控訴を棄却し、控訴状及び判決正本を被告に送達しなかつたが、このような一、二審の判断及び措置は、民訴法一二五条、一九三条一項、二二九条等の規定及び憲法七六条三項、八二条に違背するというのである。
確かに、訴えが不適法な場合であつても、当事者の釈明によつては訴えを適法として審理を開始し得ることもあるから、そのような可能性のある場合に、当事者にその機会を与えず直ちに民訴法二〇二条を適用して訴えを却下することは相当とはいえない。
しかしながら、裁判制度の趣旨からして、もはやそのような訴えの許されないことが明らかであつて、当事者のその後の訴訟活動によつて訴えを適法とすることが全く期待できない場合には、被告に訴状の送達をするまでもなく口頭弁論を経ずに訴え却下の判決をし、右判決正本を原告にのみ送達すれば足り、さらに、控訴審も、これを相当として口頭弁論を経ずに控訴を棄却する場合には、右被告とされている者に対し控訴状及び判決正本の送達をすることを要しないものと解するのが相当である。けだし、そのような事件において、訴状や判決を相手方に送達することは、訴訟の進行及び訴えに対する判断にとつて、何ら資するところがないからである。
ところで、記録によれば、本件訴えは、上告人が、通算老齢年金の支給裁定の変更を求めて提起した訴えについて、第一審裁判所が請求を棄却し、控訴裁判所が控訴を棄却し、最高裁判所が上告を棄却する旨の判決をしたのに対し、国を被告として、更に右判決の無効確認を求めるとともに、右裁定の変更を求めたものであることが明らかである。
このように、最高裁判所まで争つて判決が確定した後、更に右判決の無効確認を求める訴えは、民事訴訟法上予定されていない不適法な訴えであつて、補正の余地は全くないから、このような訴えにつき、訴状において被告とされている者に対し、訴状を送達することなく口頭弁論を経ないで訴えを却下し、その判決を右被告に送達しなかつた第一審裁判所の判断及び措置並びに同様に控訴状の送達をせずに口頭弁論を経ないで控訴を棄却し、その判決を被控訴人とされている者に送達しなかつた原審の判断及び措置は、いずれもこれを正当として是認することができる。
したがつて、右措置に、民訴法一二五条、二二九条及び一九三条一項違背の違法はなく、右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。また、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。原判決及び一、二審の訴訟手続にその余の所論の違法もなく、論旨は採用することができない。