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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

裁判所の支部を廃止する旨を定めた最高裁判所規則の取消しを求める訴訟と裁判所法三条一項にいう法律上の争訟

平成3年4月19日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する旨を定めた最高裁判所規則について、右支部の管轄区域内に居住する者が、具体的な紛争を離れ、抽象的に右規則の憲法違反を主張してその取消しを求める訴訟は、裁判所法三条一項にいう法律上の争訟に当たらない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/478/052478_hanrei.pdf

 上告代理人の上告理由第一点について
裁判所法三条一項の規定にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるのは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られるところ、このような具体的な紛争を離れて、裁判所に対して抽象的に法令が憲法に適合するかしないかの判断を求めることはできないものというべきである(最高裁昭和二七年一〇月八日大法廷判決、同平成元年九月八日第二小法廷判決)。

これを本件についてみるに、本件各訴えは、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則及び家庭裁判所出張所設置規則の一部を改正する規則(平成元年最高裁判所規則第五号。「本件改正規則」)のうち、福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する部分について、これが憲法三二条、一四条一項、前文に違反するとし、また、本件改正規則の制定には同法七七条一項所定の規則制定権の濫用の違法がある等として、上告人らが廃止に係る福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部の管轄区域内に居住する国民としての立場でその取消しを求めるというものであり、上告人らが、本件各訴えにおいて、裁判所に対し、右の立場以上に進んで上告人らにかかわる具体的な紛争についてその審判を求めるものでないことは、その主張自体から明らかである。

そうすると、本件各訴えは、結局、裁判所に対して抽象的に最高裁判所規則憲法に適合するかしないかの判断を求めるものに帰し、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」に当たらないというほかはない。

以上のとおりであるから、原審が本件各訴えを右「法律上の争訟」に当たらないとした判断は、正当として是認することができる。

所論は憲法三二条違反をいうが、原審が本件各訴えを右「法律上の争訟」に当たらないと判断したことが憲法三二条に違反するものでないことは、最高裁昭和二四年三月二三日大法廷判決、同昭和三五年一二月七日大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。
所論のその余の違憲の主張は、原審の右判断に誤りがあることを前提とするものであって、その前提を欠く。論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 不適法な訴えでその欠缺を補正することができないものである場合には、口頭弁論を経ないで判決をもって右訴えを却下することができる(民訴法三七八条、二〇二条参照)ところ、本件各訴えは、前記のとおり裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」に当たらないものであるから、不適法な訴えでその欠缺を補正することができないものに当たるというべきである。したがって、原審が本件各訴えにつき口頭弁論を開く措置を探らなかったことに所論の違法があるということはできない。
所論違憲の主張も、その実質は、原審が口頭弁論を開かなかったことの違法を主張するものにすぎず、失当である。論旨は、採用することができない。