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土地の共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいる場合にその余の共有者が右の者を被告にして右の訴えを提起することの許否

 平成11年11月9日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
土地の共有者のうちに境界確定の訴えを提起することに同調しない者がいる場合には、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と訴えを提起することに同調しない者とを被告にして右の訴えを提起することができる。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/617/052617_hanrei.pdf

 一 原審の適法に確定した事実関係は、

(1) Mの相続人である被上告人らは、第一審判決別紙物件目録記載(1)の土地(「本件土地」)を持分各四分の一ずつの割合で相続した、

(2) 本件土地は、その北側が上告人所有の道路敷(「本件道路敷」)に、南側が同人所有の河川敷(「本件河川敷」)に、それぞれ隣接している(以下、本件道路敷及び本件河川敷を併せて「上告人所有地」という。)、

(3) 被上告人らの間においてMの遺産の分割について協議が調わず、被上告人B1を除く同B2ら三名(以下「被上告人B2ら」という。)が同B1を相手方として申し立てた遺産分割の審判が京都家庭裁判所に係属しているところ、本件土地と上告人所有地との境界が確定していないために右手続が進行しないでいる、

(4) 被上告人B2らは、本件土地と上告人所有地との境界を確定するために、被上告人B1と共同して、上告人を被告として境界確定の訴えを提起しようとしたが、被上告人B1がこれに同調しなかったことから、同人及び上告人を被告として、本件境界確定の訴えを提起した、というものである。

 二 第一審は、本件土地と本件道路敷との境界は第一審判決別紙図面記載イ、ロ、ハ、ニの各点を結ぶ直線であり、本件土地と本件河川敷との境界は同図面記載ホ、ヘ、トの各点を結ぶ直線であると確定した。上告人は、被上告人B2らを被控訴人として控訴を提起し、原審において、土地の共有者が隣接する土地との境界の確定を求める訴えは共有者全員が原告となって提起すべきものであると主張し、本件訴えの却下を求めた。原審は、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人B1も被控訴人の地位に立つとした上で、被上告人B2らと上告人との間及び被上告人B2らと同B1との間で、それぞれ第一審と同一の境界を確定した。

 三 境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟と解される(最高裁昭和四六年一二月九日第一小法廷判決)。したがって、共有者が右の訴えを提起するには、本来、その全員が原告となって訴えを提起すべきものであるということができる。しかし、

【要旨】共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいるときには、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と共に右の訴えを提起することに同調しない者を被告にして訴えを提起することができるものと解するのが相当である。

けだし、境界確定の訴えは、所有権の目的となるべき公簿上特定の地番により表示される相隣接する土地の境界に争いがある場合に、裁判によってその境界を定めることを求める訴えであって、所有権の目的となる土地の範囲を確定するものとして共有地については共有者全員につき判決の効力を及ぼすべきものであるから、右共有者は、共通の利益を有する者として共同して訴え、又は訴えられることが必要となる。しかし、共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても、隣接する土地との境界に争いがあるときにはこれを確定する必要があることを否定することはできないところ、右の訴えにおいては、裁判所は、当事者の主張に拘束されないで、自らその正当と認めるところに従って境界を定めるべきであって、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴法二四六条の規定に違反するものではないのである(最高裁昭和三八年一〇月一五日第三小法廷判決)。このような右の訴えの特質に照らせば、共有者全員が必ず共同歩調をとることを要するとまで解する必要はなく、共有者の全員が原告又は被告いずれかの立場で当事者として訴訟に関与していれば足りると解すべきであり、このように解しても訴訟手続に支障を来すこともないからである。

そして、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合には、この共有者間には公簿上特定の地番により表示されている共有地の範囲に関する対立があるというべきであるとともに、隣地の所有者は、相隣接する土地の境界をめぐって、右共有者全員と対立関係にあるから、隣地の所有者が共有者のうちの原告となっている者のみを相手方として上訴した場合には、民訴法四七条四項を類推して、同法四〇条二項の準用により、この上訴の提起は、共有者のうちの被告となっている者に対しても効力を生じ、右の者は、被上訴人としての地位に立つものと解するのが相当である。
 右に説示したところによれば、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人B1も被控訴人の地位に立つとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の各判例のうち、最高裁昭和四二年九月二七日大法廷判決は、本件と事案を異にし適切でなく、その余の各判例は、所論の趣旨を判示したものとはいえない。
論旨は、右と異なる見解に立って原判決を非難するものであって、採用することができない。なお、原審は、主文三項の1において被上告人B2らと上告人との間で、同項の2において被上告人B2らと同B1との間で、それぞれ本件土地と上告人所有地との境界を前記のとおり確定すると表示したが、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合においても、境界は、右の訴えに関与した当事者全員の間で合一に確定されるものであるから、本件においては、本件土地と上告人所有地との 境界を確定する旨を一つの主文で表示すれば足りるものであったというべきである。
 よって、裁判官千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。