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入会集団の一部の構成員が訴えの提起に同調しない構成員を被告に加えて構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に対する入会権確認の訴えを提起することの許否

平成20年7月17日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり,入会集団の一部の構成員が,当該第三者を被告として当該土地が入会地であることの確認を求めようとする場合において,訴えの提起に同調しない構成員がいるために構成員全員で訴えを提起することができないときは,上記一部の構成員は,訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え,構成員全員が訴訟当事者となる形式で,構成員全員が当該土地について入会権を有することの確認を求める訴えを提起することが許され,当事者適格を否定されることはない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/620/036620_hanrei.pdf

1 本件は,上告人らが,第1審判決別紙物件目録記載1~4の各土地(以下,同目録記載の土地を,その番号に従い「本件土地1」などといい,併せて「本件各土地」という。)は鹿児島県西之表市A集落の住民を構成員とする入会集団(以下「本件入会集団」という。)の入会地であり,上告人ら及び被上告人Y2 (以下「被上告会社」という。)を除く被上告人ら(以下「被上告人入会権者ら」という。)は本件入会集団の構成員であると主張して,被上告人入会権者ら及び本件各土地の登記名義人から本件各土地を買い受けた被上告会社に対し,上告人ら及び被上告人入会権者らが本件各土地につき共有の性質を有する入会権を有することの確認を求める事案である。

2 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
被上告会社は,本件土地1についてはその登記名義人である被上告人Y3 及び同Y4 から,本件土地2~4についてはその登記名義人である被上告人Y5 及び同Y6から,それぞれ買い受け,その所有権を取得したとして,平成13年5月29日,共有持分移転登記を了した。

3 原審は,次のとおり判示して,本件訴えを却下すべきものとした。

(1) 入会権は権利者である入会集団の構成員に総有的に帰属するものであるから,入会権の確認を求める訴えは,権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟であるというべきである。

(2) 本件各土地につき共有の性質を有する入会権自体の確認を求めている本件訴えは,本件入会集団の構成員全員によって提起されたものではなく,その一部の者によって提起されたものであるため,原告適格を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。本件のような場合において,訴訟提起に同調しない者は本来原告となるべき者であって,民訴法にはかかる者を被告にすることを前提とした規定が存しないため,同調しない者を被告として訴えの提起を認めることは訴訟手続的に困難というべきである上,入会権は入会集団の構成員全員に総有的に帰属するものであり,その管理処分については構成員全員でなければすることができないのであって,構成員の一部の者による訴訟提起を認めることは実体法と抵触することにもなるから,上告人らに当事者適格を認めることはできない。

4 しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

上告人らは,本件各土地について所有権を取得したと主張する被上告会社に対し,本件各土地が本件入会集団の入会地であることの確認を求めたいと考えたが,本件入会集団の内部においても本件各土地の帰属について争いがあり,被上告人入会権者らは上記確認を求める訴えを提起することについて同調しなかったので,対内的にも対外的にも本件各土地が本件入会集団の入会地であること,すなわち上告人らを含む本件入会集団の構成員全員が本件各土地について共有の性質を有する入会権を有することを合一的に確定するため,被上告会社だけでなく,被上告人入会権者らも被告として本件訴訟を提起したものと解される。

特定の土地が入会地であることの確認を求める訴えは,原審の上記3(1)の説示のとおり,入会集団の構成員全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟である。

そして,入会集団の構成員のうちに入会権の確認を求める訴えを提起することに同調しない者がいる場合であっても,入会権の存否について争いのあるときは,民事訴訟を通じてこれを確定する必要があることは否定することができず,入会権の存在を主張する構成員の訴権は保護されなければならない。

そこで,入会集団の構成員のうちに入会権確認の訴えを提起することに同調しない者がいる場合には,入会権の存在を主張する構成員が原告となり,同訴えを提起することに同調しない者を被告に加えて,同訴えを提起することも許されるものと解するのが相当である。

このような訴えの提起を認めて,判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしても,構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから,構成員の利益が害されることはないというべきである。
最高裁昭和41年11月25日第二小法廷判決は,入会権の確認を求める訴えは権利者全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟というべきであると判示しているが,上記判示は,土地の登記名義人である村を被告として,入会集団の一部の構成員が当該土地につき入会権を有することの確認を求めて提起した訴えに関するものであり,入会集団の一部の構成員が,前記のような形式で,当該土地につき入会集団の構成員全員が入会権を有することの確認を求める訴えを提起することを許さないとするものではないと解するのが相当である。

したがって,特定の土地が入会地であるのか第三者の所有地であるのかについて争いがあり,入会集団の一部の構成員が,当該第三者を被告として,訴訟によって当該土地が入会地であることの確認を求めたいと考えた場合において,訴えの提起に同調しない構成員がいるために構成員全員で訴えを提起することができないときは,上記一部の構成員は,訴えの提起に同調しない構成員も被告に加え,構成員全員が訴訟当事者となる形式で当該土地が入会地であること,すなわち,入会集団の構成員全員が当該土地について入会権を有することの確認を求める訴えを提起することが許され,構成員全員による訴えの提起ではないことを理由に当事者適格を否定されることはないというべきである。
以上によれば,上告人らと被上告人入会権者ら以外に本件入会集団の構成員がいないのであれば,上告人らによる本件訴えの提起は許容されるべきであり,上告人らが本件入会集団の構成員の一部であることを理由に当事者適格を否定されることはない。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消した上,上告人らと被上告人入会権者ら以外の本件入会集団の構成員の有無を確認して本案につき審理を尽くさせるため,本件を第1審に差し戻すこととする。