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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

いわゆる一人会社の株主が定款所定の取締役会の承認を得ないでした株式譲渡の効力

平成5年3月30日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
1 代表取締役が取締役と認めていない者は、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律二四条一項にいう取締役に当たらない。
2 いわゆる一人会社の株主がした株式譲渡は、定款所定の取締役会の承認がなくても、会社に対する関係においても有効である。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/840/055840_hanrei.pdf

上告人が資本の額一〇〇〇万円の株式会社であって、その代表取締役にDが就任している旨の登記がされていることは、原審の適法に確定したところであり、また、本訴において、被上告人らのうちB1、B2及びB3の三名は、いずれも自己が上告人の取締役の地位にあると主張して、その旨の地位確認とDを取締役に選任する旨の上告人の株主総会の決議が存在しないことの確認等を求めたところ、これに対し、Dは上告人の代表取締役として応訴し、右三名が上告人の取締役であることを争ったことは、記録上明らかである。

ところで、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(「商法特例法」)二四条一項は、資本の額が一億円以下の株式会社(「会社」)が取締役に対し、又は取締役が会社に対して訴えを提起する場合には、その訴えについては、取締役会が定める者が会社を代表する旨規定しているところ、所論は、右三名が提起した訴えについても、右規定により上告人の取締役会が定めた者が上告人を代表して応訴すべきであったもので、右訴えに関する訴状の送達から原判決の言渡しに至るまでのすべての手続は無効であるというのである。

しかしながら、商法特例法二四条一項が会社と取締役との間の訴訟について会社の代表取締役の代表権を否定したのは、代表取締役は、本来会社の利益を図るために会社を代表して訴訟を追行すべきところ、訴訟の相手方が同僚の取締役である場合には、会社の利益よりもその取締役の利益を優先させ、いわゆるなれ合い訴訟により会社の利益を害するおそれがあることから、これを防止する趣旨によるものと解される。そうすると、会社を代表する代表取締役において当該訴訟の相手方を取締役と認めていないときは、右の意味におけるなれ合いのおそれはないことが明らかであるから、会社を代表する代表取締役において取締役と認めていない者は、同項にいう取締役に当たらないものと解するのが相当である。したがって、上告人の代表取締役として応訴したDにおいて右被上告人三名が上告人の取締役であることを争っている本件にあっては、右三名は同項にいう取締役に当たらず、右三名が提起した訴えについては同項は適用されないといわなければならない。原審のこの点に関する判断には、措辞適切を欠く部分があるが、その結論は正当として是認し得る。論旨は採用することができない。

 同第二点について

原審の適法に確定したところによると、上告人の全株式二万株を保有していたDは、このうち一万二〇〇〇株を被上告人B1に、三〇〇〇株を同B3に譲渡したが、右各譲渡については、上告人の定款所定の取締役会の承認はなかったというのである。

ところで、商法二〇四条一項ただし書が、株式の譲渡につき定款をもって取締役会の承認を要する旨を定めることを妨げないと規定している趣旨は、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、もって譲渡人以外の株主の利益を保護することにあると解される(最高裁昭和四八年六月一五日第二小法廷判決)から、本件のようないわゆる一人会社の株主がその保有する株式を他に譲渡した場合には、定款所定の取締役会の承認がなくとも、その譲渡は、会社に対する関係においても有効と解するのが相当である。
 原判決にはその説示において必ずしも適切でないところがあるが、前示の各株式譲渡は上告人に対する関係においても有効とした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。