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営業の重要な一部を譲渡する旨の決議がされた株主総会の招集通知に右営業の譲渡の要領を記載しなかった違法がある場合に決議の取消請求を棄却することの可否

平成7年3月9日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
営業の重要な一部を譲渡する旨の株主総会決議がされたが、右営業の譲渡の要領を株主総会の招集通知に記載しなかった違法がある場合には、右違法が重大でないとはいえず、商法二五一条により右決議の取消請求を棄却することはできない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/687/062687_hanrei.pdf

 一 上告人らの本件請求のうち、本件株主総会においてされた、被上告会社の営業のうち貸切バスの営業を譲渡する旨の決議(「本件決議」)の取消しを求める部分について、原審の確定した事実関係は、次のとおりである。

(1) 被上告会社は、タクシー事業及び貸切バス事業を主な目的とする株式会社であり、上告人らはその株主である。

(2) 本件株主総会の招集通知には、本件決議に係る営業譲渡の件が議案として記載されていたが、営業譲渡の要領は記載されていなかった。

(3) 右営業譲渡の相手方は被上告会社が中心となって将来設立する新会社であり、本件株主総会当時、譲渡の対価等の内容の詳細はまだ確定していなかったが、招集通知に同封された営業報告書には、営業譲渡の対象となる貸切バス部門の資産、負債等の内容が記載されていた。

(4) 本件株主総会には、被上告会社の発行済株式七万株を有する株主三八名のうち二九名(持株数合計六万七六一一株)が出席したが、招集通知に営業譲渡の要領が記載されていないことに対して出席株主から異議の申出はなく、右出席株主のうち二七名(持株数合計五万一三〇〇株)の賛成によって本件決議がされた。

原審は、右事実関係の下において、

(1) 本件株主総会の招集手続には、営業の重要な一部の譲渡について招集通知にその要領を記載しなかった違法があり、商法二四五条二項に違反する、

(2) しかし、右違反の事実は重大なものでなく、本件決議に影響を及ぼさないから、本件決議の取消請求は同法二五一条により棄却されるべきであると判断し、右請求を棄却した第一審判決を是認して、上告人らの控訴を棄却した。 

 二 しかしながら、原審の右(1)の判断は是認することができるが、右(2)の判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

商法二四五条二項が同条一項各号所定の行為について株主総会の招集通知にその要領を記載すべきものとしているのは、株主に対し、あらかじめ議案に対する賛否の判断をするに足りる内容を知らせることにより、右議案に反対の株主が会社に対し株式の買取りを請求すること(同法二四五条ノ二参照)ができるようにするためであると解されるところ、右のような規定の趣旨に照らせば、本件株主総会の招集手続の前記の違法が重大でないといえないことは明らかであるから、同法二五一条により本件決議の取消請求を棄却することはできないものというべきである。

これと異なる原審の判断には、商法二五一条の解釈適用を誤った違法があり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由につき判断するまでもなく、原判決中本件決議の取消請求に関する部分は破棄を免れない。そして、右部分については、被上告会社のその他の抗弁について更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。