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デイーゼル・エンジン自動車の運転者の失火と業務上失火罪の成否

昭和46年12月20日最高裁判所第二小法廷決定

裁判要旨    
自動車に装置したデイーゼル・エンジンの排気管は、運転中著しく高温となり、これに可燃物が接触すると火災発生の危険があるのに、運転者が、排気管と接触するおそれのある状態で運転席の床にゴム板を装着し、また、運転中ゴム板の燻焦する臭気を感知したにもかかわらず、そのまま運転を継続したため、火災が発生した場合には、業務上失火罪が成立する。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/021/057021_hanrei.pdf

原判決は、被告人の本件失火につき、刑法一一七条ノ二前段に規定する業務上失火罪の成立を是認した第一審判決を維持するに当つて、本件事故車両に装置したデイーゼル・エンジンの動力発生原理を基として、被告人が火気取り扱い業務に従事する者にあたる旨判示したのは、措辞妥当を欠くが、原判決の確定した事実によると、デイーゼル・エンジンの排気管は、運転中温度が著しく上昇し、これに可燃物を接触させると火災発生の危険があるのであり、被告人は、デイーゼル・エンジン自動車の運転者として、これを安全な状態に保持して運行すべき地位にあり、また、万一燻焦の臭気を感知したような場合には、直ちに運転を中止し応急の措置をとる注意義務があるというべきであるから、被告人が第一審判決の認定する経過で火を失した場合には、業務上失火罪に該当するものと解するのが相当である。