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株式会社が定款で株主総会における議決権行使の代理人の資格を株主に限定している場合と株主である地方公共団体、株式会社の職員又は従業員による議決権の代理行使

昭和51年12月24日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
1、株式会社が定款で株主総会における議決権行使の代理人の資格を株主に限定している場合においても、株主である地方公共団体、株式会社が、その職制上上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使にあたつて法人の代表者の意図に反することができないようになつている職員又は従業員に議決権を代理行使させることは、右定款の規定に反しない。
2、株主総会決議取消の訴において、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは、許されない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/217/053217_hanrei.pdf

原審が適法に確定したところによれば、被上告会社の定款には、「株主又はその法定代理人は、他の出席株主を代理人としてその議決権を行使することができる。」旨の規定があり、被上告会社の本件株主総会において、株主である新潟県直江津市、D通運株式会社がその職員又は従業員に議決権を代理行使させたが、これらの使用人は、地方公共団体又は会社という組織のなかの一員として上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使に当たつて法人である右株主の代表者の意図に反するような行動をすることはできないようになつているというのである。

このように、株式会社が定款をもつて株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該会社の株主に限る旨定めた場合において、当該会社の株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、原審認定のような事実関係の下においては、右定款の規定に反しないと解するのが相当である。けだし、右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえつて、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。論旨は、これと異なる前提に立つて原判決を論難するものであつて、採用することができない。 


株主総会決議取消しの訴えを提起した後、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、取消しを求められた決議は、たとえ瑕疵があるとしても、取り消されるまでは一応有効のものとして取り扱われ、会社の業務は右決議を基礎に執行されるのであつて、その意味で、右規定は、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるためその取消しの訴えを提起することができる期間を決議の日から三カ月と制限するものであり、また、新たな取消事由の追加主張を時機に遅れない限り無制限に許すとすれば、会社は当該決議が取り消されるのか否かについて予測を立てることが困難となり、決議の執行が不安定になるといわざるを得ないのであつて、そのため、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるという右規定の趣旨は没却されてしまうことを考えると、右所定の期間は、決議の瑕疵の主張を制限したものと解すべきであるからである。
 したがつて、Eの議決権行使を被上告会社が認めなかつたのは違法である旨の第一、二審における上告人の主張は、本件決議取消しの訴えの提起期間経過後に新たに追加されたものであるから許されないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。