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役員退職慰労金贈呈の株主総会決議取消しの訴えの係属中に当該決議と同一の内容の決議がされた場合と訴えの利益

平成4年10月29日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
役員退職慰労金贈呈の株主総会決議取消しの訴えの係属中、右決議と同一の内容を持ち、右決議の取消判決が確定した場合にはさかのぼって効力を生ずるものとされている決議が有効に成立し、それが確定したときは、特別の事情がない限り、右決議取消しの訴えの利益は、失われる。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53500

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/500/053500_hanrei.pdf

原審の確定したところによれば、

(1) 被上告会社が昭和六二年三月三〇日に開催した第六八回定時株主総会において退任取締役及び退任監査役退職慰労金を贈呈する旨の決議がされ(「第一の決議」)、上告人らが第一の決議の取消しを求める本件訴えを提起し、第一審は右決議を取り消す旨の判決を言い渡したところ、被上告会社が昭和六三年三月三〇日に開催した第六九回定時株主総会において同一の議案(ただし、前株主総会におけるのと異なり、贈呈すべき退職慰労金の総額が明示された。)が可決され(「第二の決議」)、第二の決議はこれに対する取消訴訟等の提起もなく確定した、

(2) 第二の決議によれば、退職慰労金支給の時期は昭和六二年三月三一日とされ、第二の決議は、第一の決議の取消しが万一確定した場合、さかのぼって効力を生ずるものとされていた、というのである。

そうすると、本件においては、仮に第一の決議に取消事由があるとしてこれを取り消したとしても、その判決の確定により、第二の決議が第一の決議に代わってその効力を生ずることになるのであるから、第一の決議の取消しを求める実益はなく、記録を検討しても、他に本件訴えにつき訴えの利益を肯定すべき特別の事情があるものとは認められない。論旨はまた、取締役等に対する過料の制裁を求める上で第一の決議の取消しを求める必要があることを理由に本件訴えにつき訴えの利益があるとも主張するが、右の制裁を求める上で第一の決議の取消しは法律上必要でなく、単なる立証上の便宜を図る必要性をもって訴えの利益があるものとすることはできない。原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲の主張を含め、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。