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財産の分与に関する処分の審判の申立てを却下する審判に対し相手方が即時抗告をすることの許否

令和3年10月28日最高裁判所第一小法廷決定

裁判要旨    
財産の分与に関する処分の審判の申立てを却下する審判に対し,夫又は妻であった者である相手方は,即時抗告をすることができる。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90659

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/659/090659_hanrei.pdf

1 本件は,離婚をした相手方と抗告人が,それぞれ,財産の分与に関する処分の審判(「財産分与の審判」)を申し立てた事案である(以下,相手方の申立てに係る事件を「第1事件」といい,抗告人の申立てに係る事件を「第2事件」という。)。

2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
相手方と抗告人は,平成23年に婚姻をしたが,平成29年8月9日に離婚をした。
相手方は,令和元年8月7日,抗告人に対し,財産の分与に関する処分の調停の申立てをした。
上記の調停事件は,令和元年11月,不成立により終了したため,上記申立ての時に第1事件の申立てがあったものとみなされた(家事事件手続法272条4項)。
抗告人は,令和2年3月,相手方に対し,第2事件の申立てをした。
原々審は,第1事件及び第2事件の各申立てをいずれも却下する審判をした。
抗告人は,上記審判に対する即時抗告(「本件即時抗告」)をした。

3 抗告人の抗告理由のうち第1事件に係る部分について
原審は,要旨次のとおり判断して,本件即時抗告のうち第1事件に係る部分を却下した。
第1事件の申立てを却下する審判は,第1事件において抗告人が受けられる最も有利な内容であり,抗告人は抗告の利益を有するとはいえないから,即時抗告をすることができず,本件即時抗告のうち上記部分は不適法である。

しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
家事事件手続法156条5号は,財産分与の審判及びその申立てを却下する審判に対しては,夫又は妻であった者が即時抗告をすることができるとしている。これは,財産分与の審判及びその申立てを却下する審判に対しては,当該審判の内容等の具体的な事情のいかんにかかわらず,夫又は妻であった者はいずれも当然に抗告の利益を有するものとして,これらの者に即時抗告権を付与したものであると解される。
したがって,財産分与の審判の申立てを却下する審判に対し,夫又は妻であった者である当該申立ての相手方は,即時抗告をすることができるものと解するのが相当である。
以上と異なる見解に立って,本件即時抗告のうち第1事件に係る部分を却下した原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原決定中,主文第1項は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。