最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ての適否

平成23年9月20日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
1 債権差押命令の申立てにおける差押債権の特定は,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものであることを要する。
2 大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする方式による預貯金債権の差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法である。
(1,2につき補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=81634

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/634/081634_hanrei.pdf

 1 本件は,抗告人が,抗告人の相手方に対する金銭債権を表示した債務名義による強制執行として,相手方の第三債務者Z1銀行,同Z2銀行及び同Z3銀行に対する預金債権並びに第三債務者Z4銀行に対する貯金債権の差押えを求める申立て(「本件申立て」)をした事案である。抗告人は,その申立書において,差し押さえるべき債権(「差押債権」)を表示するに当たり,各第三債務者の全ての店舗又は貯金事務センター(以下,単に「店舗」という。)を対象として順位付けをした上,同一の店舗の預貯金債権については,先行の差押え又は仮差押えの有無,預貯金の種類等による順位付けをしている。

 2 原審は,本件申立ては,差押債権の特定(民事執行規則133条2項)を欠き不適法であるとして,これを却下すべきものとした。

 3(1) 民事執行規則133条2項は,債権差押命令の申立書に強制執行の目的とする財産を表示するときは,差押債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項を明らかにしなければならないと規定している。そして,債権差押命令は,債務者に対し差押債権の取立てその他の処分を禁止するとともに,第三債務者に対し差押債権の債務者への弁済を禁止することを内容とし(民事執行法145条1項),その効力は差押命令が第三債務者に送達された時点で直ちに生じ(同条4項),差押えの競合の有無についてもその時点が基準となる(同法156条2項参照)。

これらの民事執行法の定めに鑑みると,民事執行規則133条2項の求める差押債権の特定とは,債権差押命令の送達を受けた第三債務者において,直ちにとはいえないまでも,差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに,かつ,確実に,差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当であり,この要請を満たさない債権差押命令の申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである。債権差押命令の送達を受けた第三債務者において一定の時間と手順を経ることによって差し押さえられた債権を識別することが物理的に可能であるとしても,その識別を上記の程度に速やかに確実に行い得ないような方式により差押債権を表示した債権差押命令が発せられると,差押命令の第三債務者に対する送達後その識別作業が完了するまでの間,差押えの効力が生じた債権の範囲を的確に把握することができないこととなり,第三債務者はもとより,競合する差押債権者等の利害関係人の地位が不安定なものとなりかねないから,そのような方式による差押債権の表示を許容することはできない。

 (2) 本件申立ては,大規模な金融機関である第三債務者らの全ての店舗を対象として順位付けをし,先順位の店舗の預貯金債権の額が差押債権額に満たないときは,順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押債権とする旨の差押えを求めるものであり,各第三債務者において,先順位の店舗の預貯金債権の全てについて,その存否及び先行の差押え又は仮差押えの有無,定期預金,普通預金等の種別,差押命令送達時点での残高等を調査して,差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り,後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないのであるから,本件申立てにおける差押債権の表示は,送達を受けた第三債務者において上記の程度に速やかに確実に差し押えられた債権を識別することができるものであるということはできない。そうすると,本件申立ては,差押債権の特定を欠き不適法というべきである。

 4 以上と同旨をいう原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。