最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

複数年度分の普通徴収に係る個人の住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において当該差押えに係る地方税に配当された金銭であってその後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の住民税に充当されていたものの帰すう

令和3年6月22日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
複数年度分の普通徴収に係る個人の住民税(市町村民税及び道府県民税)を差押えに係る地方税とする滞納処分において,当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって,その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の住民税に充当されていたものは,その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の住民税が存在する場合には,民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)489条の規定に従って当該住民税に充当される。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90407

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/407/090407_hanrei.pdf

普通徴収に係る個人の市町村民税及び道府県民税(以下「個人住民税」という。)について賦課決定がされた後,当初から当該賦課決定における税額等の計算に誤りがあったことを理由に減額賦課決定がされた場合,当初の賦課決定のうち減額賦課決定により減少した税額に係る部分は当初の賦課決定時に遡って効力を失い,当該部分の個人住民税は当初から存在しなかったこととなる。そのため,当初の賦課決定に基づく個人住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分における配当金であって,上記減額賦課決定がされた結果存在しなかったこととなる個人住民税に充当されていたものについては,当該充当は対象債権を欠いていたものとしてその効力を有しないこととなる。

ところで,複数の地方税を差押えに係る地方税とする滞納処分において,当該差押えに係る地方税に配当された金銭は,当該複数の地方税のいずれかに滞納分が存在する限り,法律上の原因を欠いて徴収されたものとなるのではなく,当該滞納分に充当されるべきものである。滞納処分制度が地方税等の滞納状態の解消を目的とするものであることに照らせば,このことは,上記のように当初の充当が効力を有しないこととなった配当金についても同様に妥当し,当該配当金は,その配当時において差押えに係る地方税のうちに他に滞納分が存在する場合には,これに充当されるべきものである。仮に,当該配当金が直ちに法律上の原因を欠いて徴収された過納金に当たるものとして還付されるとすれば,その配当時において当該差押えに係る地方税に滞納分が存在したにもかかわらず,その滞納状態を解消する効果が生じず,当該滞納状態を基礎とする延滞金が生ずることにもなって,滞納処分制度の上記目的に反するものといわざるを得ない。そして,滞納処分制度が設けられている趣旨に照らせば,上記のように当初の充当が効力を有しないこととなった配当金について他に充当されるべき差押えに係る地方税が存在する場合には,債務の弁済に係る画一的かつ最も公平,妥当な充当方法である民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)489条の規定に従った充当(以下「法定充当」という。)がされるものと解すべきである。

以上によれば,複数年度分の個人住民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において,当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって,その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の個人住民税に充当されていたものは,その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の個人住民税が存在する場合には,当該個人住民税に法定充当がされるものと解すべきである。

これを本件についてみると,市長は,複数年度分の市道民税を差押えに係る地方税とする本件各滞納処分において,当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって,本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されていたものにつき,当該差押えに係る地方税のうちその配当時に存在していた他の年度分の市道民税に充当されたものとせず,それぞれ直ちにその金額に相当する過納金が生じたものとして,本件各減額賦課決定により生じた過納金の額を計算したものであるから,市長の当該計算には誤りがある。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人が上告人に還付すべき過納金の額等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 

 

民法

(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
第四百八十九条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。