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株主総会の決議の成立と採決手続を経ることの要否

昭和42年7月25日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
一 株主総会の決議は、定款に別段の定めがないかぎり、その議案に対する賛成の議決権数が決議に必要な数に達したことが明白になつた時に成立するものと解すべきであつてかならずしも挙手、起立、投票などの採決の手続をとることを要しない。
二 営業の譲渡に関する株主総会の決議について、譲渡会社の株主が譲受会社の代表取締役であつても、ただちにその株主が商法第二三九条第五項のいわゆる特別利害関係人にあたるとはいえない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/005/055005_hanrei.pdf

 

上告代理人元原利文の上告理由第一、二点について。
株主総会における議事の方式については、法律に特例の規定がないから、定款に別段の定めをしていないかぎり、総会の討議の過程を通じて、その最終段階にいたつて、議案に対する各株主の確定的な賛否の態度がおのずから明らかとなつて、その議案に対する賛成の議決権数がその総会の決議に必要な議決権数に達したことが明白になつた以上、その時において表決が成立したものと解するのが相当であり、したがつて、議長が改めてその議案について株主に対し挙手・起立・投票など採決の手続をとらなかつたとしても、その総会の決議が成立しないということはいえない。

そして、原判決がその挙示の証拠により適法に認定した事実関係、とくに本件総会の最終段階において議事の対象となつている営業譲渡案について、Dら三名を除く株主七名が賛成であることが明らかになつたという事実関係のもとにおいては、本件総会の決議が成立し、決議が不存在とはいえないとした原判決の判断は、肯認しえないわけではない。

なお、論旨中には、議案に対する賛否が何人に対して明らかになつたかが明示されていない旨をいう部分もあるが、原判決の判文によれば、右総会に出席した株主全員がこれを了知していた趣旨であることは明らかである。したがつて、この点の論旨も失当である。

結局、原判決には、所論のような違法があるとはいいがたく、所論は、採用しがたい。 

同第四点前段部分について。

営業の譲渡に関する株主総会の決議についで、営業を譲渡する会社の株主がこれを譲り受ける会社の代表取締役であるからといつて、ただちにその株主をもつて、その決議について、商法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者と解することはできない。
ところで、原判決の確定したところによると、被上告会社の株主であるEが本件営業譲渡の譲受会社の代表取締役であるというにすぎないのであるから、同人をもつて、本件決議についていわゆる特別利害関係人ということができないことは、前記説示によつて明らかである。

したがつて、同人が加わつてした本件決議に違法は存しない。
原判決の判文中には、これと異なる見解を前提とするかのような説示部分もあるが、本件決議自体は有効である旨を判示しているから、その結論において正当というべきである。
 結局、所論は、採用しがたい。