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枉法収賄と贈賄の各訴因の間に公訴事実の同一性が認められる事例

昭和53年3月6日最高裁判所第一小法廷決定

裁判要旨    
 「被告人甲は、公務員乙と共謀のうえ、乙の職務上の不正行為に対する謝礼の趣旨で、丙から賄賂を収受した」という枉法収賄の訴因と、「被告人甲は、丙と共謀のうえ、右と同じ趣旨で、公務員乙に対して賄賂を供与した」という贈賄の訴因とは、収受したとされる賄賂と供与したとされる賄賂との間に事実上の共通性がある場合には、公訴事実の同一性を失わない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/128/051128_hanrei.pdf

 所論にかんがみ、職権により判断するに、「被告人甲は、公務員乙と共謀のうえ、乙の職務上の不正行為に対する謝礼の趣旨で、丙から賄賂を収受した」という枉法収賄の訴因と、「被告人甲は、丙と共謀のうえ、右と同じ趣旨で、公務員乙に対して賄賂を供与した」という贈賄の訴因とは、収受したとされる賄賂と供与したとされる賄賂との間に事実上の共通性がある場合には、両立しない関係にあり、かつ、一連の同一事象に対する法的評価を異にするに過ぎないものであつて、基本的事実関係においては同一であるということができる。したがつて、右の二つの訴因の間に公訴事実の同一性を認めた原判断は、正当である。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官団藤重光の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官団藤重光の補足意見は、次のとおりである。
 問題は、第一審における本位的訴因と予備的訴因とが公訴事実の同一性の範囲内にあるものといえるかどうかである。本件は、被告人Aが自動車運転免許証取得者と運転免許試験の試験官とのあいだに介在して賄賂の授受に関与した事案であるが、本位的訴因では被告人を収賄側の共犯者とみたのに対し、予備的訴因では同人を贈賄側の共犯者とみたのであつて、そこに基本的事実関係の同一性があるのはもちろんのこと、わたくしのいわゆる構成要件的共通性(団藤・新刑事訴訟法綱要・七訂版・一五一頁参照)があることもあきらかである。けだし、本件の本位的訴因において収賄罪の構成要件に該当するものとされた事実と、予備的訴因において贈賄罪の構成要件に該当するものとされた事実とは、重要な部分において重なり合うものだからである。私見も多数意見―従来の判例の見解―と基本的に異なるものではない。