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単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても,訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されるか

平成21年7月21日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく,被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において,被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは,他に共謀共同正犯者が存在するとしても,裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/849/037849_hanrei.pdf

所論にかんがみ,職権により判断する。

1 原判決の認定及び記録によれば,本件の事実関係及び審理の経過は,次のとおりである。

(1) 本件は,被告人が原動機付自転車を窃取した窃盗3件,通行人からかばん等をひったくり窃取した窃盗3件,不正に入手した他人名義のキャッシュカードを用いて現金自動預払機から現金を窃取した窃盗1件,同様に現金を窃取しようとしたがその目的を遂げなかった窃盗未遂1件の事案であり,いずれも被告人の単独犯として起訴された。

(2) 被告人は第1審公判で公訴事実を認め,第1審判決は訴因どおりの事実を認定したが,被告人は,原審において,第1審で取り調べた被告人の供述調書に現れている事実を援用して,このうち4件の窃盗については,被告人が実行行為の全部を1人で行ったものの,他に共謀共同正犯の責めを負うべき共犯者がおり,被告人は単独犯ではないから,第1審判決には事実誤認がある旨主張した。

(3) 原判決は,第1審で取り調べた証拠により,このうち2件の窃盗について,被告人が実行行為の全部を1人で行ったこと及び他に実行行為を行っていない共謀共同正犯者が存在することが認められるとし,第1審裁判所としては共謀共同正犯者との共謀を認定することは可能であったとしたが,このような場合,検察官が被告人を単独犯として起訴した以上は,その訴因の範囲内で単独犯と認定することは許されるとして,第1審判決に事実誤認はないとした。

2 所論は,被告人が実行行為の全部を1人で行っていても,他に共謀共同正犯者が存在する以上は,被告人に対しては共同正犯を認定すべきであり,原判決には事実誤認があると主張する。
そこで検討するに,検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく,被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において,被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは,他に共謀共同正犯者が存在するとしてもその犯罪の成否は左右されないから,裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されると解するのが相当である。
したがって,第1審判決に事実誤認はないとした原判断は,是認することができる。