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国際捜査共助に基づき中華人民共和国において同国の捜査官によって作成された供述調書が刑訴法321条1項3号の書面に当たるとされた事例

平成23年10月20日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
国際捜査共助に基づき,中華人民共和国において身柄を拘束されていた共犯者を同国の捜査官が取り調べ,その供述を録取した供述調書であって,犯罪事実の証明に欠くことができないものは,同国の捜査機関に対し日本の捜査機関から取調べの方法等に関する要請があり,取調べに際しては黙秘権が実質的に告知され,取調べの間,肉体的,精神的強制が加えられた形跡はないなどの本件事実関係の下では,刑訴法321条1項3号の書面に当たる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/707/081707_hanrei.pdf

本件は,中華人民共和国(以下「中国」という。)から日本に留学してきた被告人が,

(1) 中国人の共犯者らと共謀の上,来日直後の中国人留学生の居室に押し入り,中国人留学生2人から現金等を強取した住居侵入,強盗,

(2)中国人の共犯者らと共謀の上,日本語学校の校舎内に侵入して,現金等を盗んだ建
造物侵入,窃盗,

(3) 中国人の共犯者らと共謀の上,中国人留学生の居室に侵入して,現金等を盗んだ住居侵入,窃盗,(4) 中国人の共犯者と共謀の上,他の中国人になりすまして,電器店から携帯電話機1台等をだまし取った詐欺,

(5) 中国人の共犯者らと共謀の上,被害者方に押し入り,同人方の一家全員を殺害して金品を強取するとともに,その死体を海中に投棄して犯跡を隠ぺいすることを企て,一家4人を殺害してこれを実行した住居侵入,強盗殺人,死体遺棄

(6) 交際していた中国人女性に対し,暴行を加えて負傷させた傷害の事案である。

前記(5)の事実については,中国の捜査官が同国において身柄を拘束されていた共犯者であるE及びFを取り調べ,その供述を録取した両名の供述調書等が被告人の第1審公判において採用されているが,所論は,上記供述調書等について,その取調べは供述の自由が保障された状態でなされたものではないなどとして,証拠能力ないし証拠としての許容性がないという。

そこで検討するに,上記供述調書等は,国際捜査共助に基づいて作成されたものであり,前記(5)の犯罪事実の証明に欠くことができないものといえるところ,日本の捜査機関から中国の捜査機関に対し両名の取調べの方法等に関する要請があり,取調べに際しては,両名に対し黙秘権が実質的に告知され,また,取調べの間,両名に対して肉体的,精神的強制が加えられた形跡はないなどの原判決及びその是認する第1審判決の認定する本件の具体的事実関係を前提とすれば,上記供述調書等を刑訴法321条1項3号により採用した第1審の措置を是認した原判断に誤りはない。

被告人の量刑について検討するに,特に重視すべき前記(5)の住居侵入,強盗殺人,死体遺棄の事実は,被告人は,中国人の共犯者2名と共謀の上,金品を得るために,資産家であると考えた福岡市内の被害者A(当時41歳)一家に狙いを定め,被害者宅に押し入って家族全員を殺害するとともに金品を強取し,その死体を遺棄することを計画し,これを実行したというものである。

被告人らは,犯行に先立って,犯行に用いる道具を準備し,下見をするなど,周到に謀議と準備を重ねた上,平成15年6月20日深夜に被害者宅に侵入するや,まず,Aの妻であるB(当時40歳)に対し,頸部をつかんで浴槽内にその顔を押し入れて頸部圧迫と溺水により死亡させ,AとBの子であるC(当時11歳)に対し,仰向けに寝ている同人の前頸部を絞め付けて窒息死させ,さらに,AとBの子であるD(当時8歳)を人質にして,そのころ帰宅したAからキャッシュカードの暗証番号を聞き出した後,Dの頸部に巻き付けたネクタイの両端を強く引き合って,Dを絞頸により窒息死させ,Aに対しては,頸部に巻き付けたネクタイを強く引き合って瀕死の重傷を負わせた上,A並びにB,C及びDの死体を2回に分けて同市内のふ頭に運び,Cの死体をその左手首にダンベルを手錠で結び付けた上で岸壁から海中に投棄して遺棄し,Bの死体をその右手首に箱型鉄製重りを手錠で結び付けて海中に投棄して遺棄し,さらに,Aの左手首にダンベルを手錠で結び付け,そのダンベルをDの左足首に手錠で結び付けて,岸壁から海中に投棄して,Aを海水吸引により溺死させるとともに,Dの死体を遺棄した。

以上のとおり,上記犯行は,被害者らに対する強固な殺意をもって敢行されたものであり,金品を得るという目的のためには,人の生命の尊さをも意に介しない被告人らの行為は,極めて冷酷,残忍なものである。4人の生命を奪った結果は,極めて重大であって,何の落ち度もないのに突如非業の死を遂げた被害者らの無念さは,察するに余りある。遺族の処罰感情がしゅん烈なのも当然である。本件が社会に与えた衝撃や不安も大きい。被告人は,E及びFから誘われて上記犯行に加担したものではあるが,謀議や犯行準備の段階から深く関与しており,犯行に際しては,実行行為の重要な部分を担当している。
 以上の事情に照らすと,被告人の刑事責任は,極めて重大であるといわざるを得ず,被告人が本件各犯罪事実をおおむね認め,取り分け本件強盗殺人事件の犯行に及んだことについて反省後悔の念を深めていること,犯行後に中国に帰国した共犯者らのうち1名に対し同国の裁判所において無期懲役が言い渡されていることなど,所論が指摘する事情を考慮しても,原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。 

 

刑事訴訟法

(被告人以外の者の供述書面の証拠能力)

第321条
1 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
①裁判官の面前(第157条の6第1項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異った供述をしたとき。
②検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異った供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
③前2号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
2 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
3 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第1項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
4 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。