最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

市立中学校の「中学校生徒心得」に男子生徒の頭髪は丸刈りとするなどの定めを置く行為が抗告訴訟の対象となる処分に当たらないとされた事例

 平成8年2月22日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
市立中学校の「中学校生徒心得」に男子生徒の頭髪は丸刈りとする旨の定め及び生徒は外出のとき原則として制服又は体操服を着用する旨の定めを置く行為は、右「中学校生徒心得」が「次にかかげる心得は、大切にして守ろう。」などの前文に続けて諸規定を掲げているものであり、右各定めに違反した場合の処分等の定めは置かれていないなど判示の事実関係の下においては、抗告訴訟の対象となる処分に当たらない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/169/073169_hanrei.pdf

原審の適法に確定した事実関係及び記録によれば、本件の「中学校生徒心得」は、「次にかかげる心得は、大切にして守ろう。」などの前文に続けて諸規定を掲げているものであり、その中に、「男子の制服は、次のとおりとする。(別図参照)」とした上で、別図において「頭髪・丸刈りとする。」とする定めや、校外生活に関して、「外出のときは、制服又は体操服を着用し(公共施設又は大型店舗等を除く校区内は私服でもよい。)、行き先・目的・時間等を保護者に告げてから外出し、帰宅したら保護者に報告する。」との定めが置かれているが、これに違反した場合の処分等の定めは置かれていないというのである。

右事実関係の下において、これらの定めは、生徒の守るべき一般的な心得を示すにとどまり、それ以上に、個々の生徒に対する具体的な権利義務を形成するなどの法的効果を生ずるものではないとした原審の判断は、首肯するに足りる。これによれば、右の「中学校生徒心得」にこれらの定めを置く行為は、抗告訴訟の対象となる処分に当たらないものというべきであるから、本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。

右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に基づいて原判決の法令の解釈適用の誤りをいうか、又は原判決の結論に影響を及ぼさない部分についてその違法をいうに帰し、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。