物上保証人所有の不動産を目的とする競売の開始決定の債務者への送達が債務者の所在が不明であるため公示送達によりされた場合における被担保債権の消滅時効の中断
平成14年10月25日最高裁判所第二小法廷決定
裁判要旨
物上保証人所有の不動産を目的とする競売手続において,債務者の所在が不明であるため,開始決定の債務者への送達が公示送達によりされた場合には,民訴法111条の規定による掲示を始めた日から2週間を経過した時に,被担保債権について消滅時効の中断の効力を生ずる。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/377/052377_hanrei.pdf
抗告代理人の抗告理由について
【要旨】物上保証人所有の不動産を目的とする根抵当権の実行としての競売手続において,債務者の所在が不明であるため,競売開始決定正本の債務者への送達が公示送達によりされた場合には,民訴法113条の類推適用により,同法111条の規定による掲示を始めた日から2週間を経過した時に,債務者に対し民法155条の通知がされたものとして,被担保債権について消滅時効の中断の効力を生ずると解するのが相当である。その理由は,次のとおりである。
(1) 民訴法113条は,相手方の所在が不明である場合において,相手方に対する公示送達がされた書類に,その相手方に対し訴訟の目的である請求又は防御の方法に関する意思表示をする旨の記載があるときに,その意思表示の実体法上の到達の効力を認め,ほぼ同様の公示機能を有する民法97条ノ2所定の意思表示の手続を重ねて執ることを要しないこととして,表意者に二重の負担を掛けることを回避する趣旨の規定である。
(2) ところで,物上保証人所有の不動産を目的とする競売手続において,債務者に対し競売開始決定正本が送達された場合には,債務者に対し民法155条の差押えの通知がされたものとして,同決定正本が債務者に送達された時に当該被担保債権について消滅時効の中断の効力を生ずるが(最高裁昭和50年11月21日第二小法廷判決,最高裁平成8年7月12日第二小法廷判決),このように競売開始決定正本の送達によって実体法上のいわゆる観念の通知が行われる場合について,訴訟書類の送達によって実体法上の意思表示が行われる場合と異なった取扱いをすべき実質的な理由はない。
(3) また,民訴法113条が,公示送達によって相手方に到達したものとみなされる意思表示を訴訟の目的である請求又は防御の方法に関するものと規定しているのは,訴訟の追行に必要な意思表示に限りその到達の効力を認める趣旨と解されるところ,競売開始決定及びその正本の送達は競売手続の進行に必要不可欠なものであるから,これによってされる民法155条の通知について民訴法113条を類推適用することとしても,同条の趣旨に反するものではない。
(4) そして,債務者の所在が不明である場合に,競売開始決定正本の公示送達のほかに,別途債務者に対する民法97条ノ2所定の手続による通知を要するとすることは,債権者に不相応の負担を掛けるものというべきである。
したがって,これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができ,所論引用の判例に抵触するものではない。
民事訴訟法
(公示送達の方法)
第百十一条 公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条 公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第百十条第三項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3 前二項の期間は、短縮することができない。