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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 破産管財人が別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し又は上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときに、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するか

令和5年2月1日最高裁判所第三小法廷決定

裁判要旨    
破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有する。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/746/091746_hanrei.pdf

1 本件は、抗告人所有の不動産について相手方を根抵当権者とする根抵当権の実行としての競売の開始決定がされたところ、抗告人が、上記根抵当権の被担保債権が時効によって消滅したことにより上記根抵当権は消滅したと主張して、相手方に対し、上記競売手続の停止及び上記根抵当権の実行禁止の仮処分命令の申立てをした事案である。

2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
相手方は、抗告人が所有する原決定別紙不動産物件目録(土地)記載の各土地及び同目録(建物)記載の建物(「本件各不動産」)について、原決定別紙根抵当権目録記載の各根抵当権(以下「本件各根抵当権」という。)の設定を受けた。
抗告人は、相手方から原決定別紙債権目録記載の各貸付けを受けたが、平成26年5月、期限の利益を喪失した。
抗告人は、平成28年7月、破産手続開始の決定を受け、A弁護士が破産管財人(以下「本件破産管財人」という。)に選任された。抗告人が上記決定を受けたことにより、本件各根抵当権の担保すべき元本が確定した。本件各根抵当権の被担保債権は、上記各貸付けに係る債権(以下「本件各被担保債権」という。)である。
本件破産管財人は、本件各不動産につき、任意売却を検討し、相手方との間でその受戻しについて交渉(以下「本件交渉」という。)をしたが、任意売却の見込みが立たず、相手方に対し、破産財団から放棄する予定である旨の破産規則56条後段所定の通知(以下「本件事前通知」という。)をした上で、平成29年2月28日付けの書面により、破産裁判所の許可を得て破産財団から放棄した旨の通知(「本件放棄通知」)をした。本件破産管財人は、本件交渉、本件事前通知及び本件放棄通知をするに際し、相手方に対して本件各被担保債権が存在する旨の認識を表示した。
抗告人は、平成29年5月、破産手続廃止の決定を受けた。
相手方は、令和4年1月、本件各根抵当権の実行としての競売の申立てをし、その後、上記申立てに基づき、本件各不動産について担保不動産競売の開始決定がされた。

3 原審は、本件破産管財人がした前記2 の認識の表示は本件各被担保債権についての債務の承認(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)147条3号)に当たり、本件各被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するから、本件各被担保債権の消滅時効は完成していないとして、本件申立てを却下すべきものとした。所論は、破産管財人は破産者の債務の承認をする権限を有しないから、本件破産管財人による本件各被担保債権についての債務の承認は本件各被担保債権の消滅時効を中断する効力を有しないとして、原審の上記判断には法令解釈の誤り及び判例違反があるというものである。

4 時効の中断の効力を生ずべき債務の承認とは、時効の利益を受けるべき当事者がその相手方の権利の存在の認識を表示することをいうのであって、債務者以外の者がした債務の承認により時効の中断の効力が生ずるためには、その者が債務者の財産を処分する権限を有することを要するものではないが、これを管理する権限を有することを要するものと解される(民法156条参照)。

そして、破産管財人は、その職務を遂行するに当たり、破産財団に属する財産に対する管理処分権限を有するところ(破産法78条1項)、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得るものである(同法44条参照)。破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻し(同法78条2項14号)について上記別除権を有する者との間で交渉したり、上記不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に上記の者に対してその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであり、これらに際し、破産管財人が上記の者に対して上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、上記職務の遂行上想定されるものであり、上記権限に基づく職務の遂行の範囲に属する行為ということができる。

そうすると、破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。

5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の大審院判例大審院昭和3年(オ)第486号同年10月19日判決・民集7巻11号801頁)は、破産管財人の職務の遂行の範囲に属する行為に係る本件とは事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。