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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

建築基準法四二条二項の指定により同条一項の道路とみなされている土地上に設置されたブロック塀の収去請求が許されないとされた事例

 平成5年11月26日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
建築基準法四二条二項の指定により同条一項の道路とみなされている土地上にブロック塀が設置された場合において、右ブロック塀の設置により既存の通路の幅員が狭められた範囲がブロック二枚分の幅にとどまり、右ブロック塀の外側に既存の通路があって、日常生活上支障が生じていないときは、隣接地の地上建物の所有者は、人格権が侵害されたことを理由として右ブロック塀の収去を求めることができない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/126/073126_hanrei.pdf

 

 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

 1 上告人は、東京都中野区ab丁目c番dの土地及び同土地上の建物を所有して同建物に居住し、被上告人は、同番eの土地(被上告人の妻の母親の所有)上の東端の建物を所有して同建物に居住し、訴外D及び同Eは、同番fの土地及び同土地上の建物を共有し、Dは同建物に居住している。右三筆の土地及び各土地上の建物の位置関係、形状は別紙図面のとおりであるところ、同番d及び同番eの各土地と同番fの土地の境界を中心線として、その両側に水平距離二メートルの範囲の土地(同図面の斜線部分)は、建築基準法四二条二項に規定する指定により同条一項の道路とみなされている(を「本件道路指定土地」)。

 2 被上告人が同番eの土地上に前記建物を建築して同建物に居住するようになった当時、既に、同番dの土地上には上告人所有の旧建物があり、本件道路指定土地の中心線からブロック二枚分の幅ほど北側に寄った位置に塀が設けられていた。
上告人は、昭和六一年七月ころ旧建物を取り壊して建物を新築することとし、昭和六二年二月ころまでに現在の建物の新築を終えたが、その際、従前の塀を取り壊して、その位置からブロック二枚分の幅ほど南側に張り出した位置(本件道路指定土地の中心線にほぼ沿った位置)にブロック塀を新設する工事に着手したところ、中野区役所建築課の職員から、本件道路指定土地内にブロック塀を設置することは許されないと通告された。しかし、上告人は予定どおり工事を強行しようとしたため、中野区長は工事の停止を命じたが、上告人は、右工事停止命令に従わず、昭和六二年三月ころ、同番dの土地と各隣接土地との境界にほぼ沿った位置にブロック塀を設置した(同図面記載のとおり。以下「本件ブロック塀」という。)。

 3 本件道路指定土地の中心線から南側に幅員約三メートルの通路状の土地部分(DとFの共有に係る同番fの土地の一部)がある。

 二 原審は、右事実関係の下において、

(一) 一般人は、建築基準法四二条二項の指定がされた道路を自由に通行し、関係者・関係行政庁の右道路を使用してのサービスの提供を受けることができるところ、道路の通行等への利用は、右指定による反射的な利益であるけれども、被上告人にとっては、同時に民法上保護に値する自由権(人格権)の重要な内容をなすから、右権利に基づいてその妨害の排除、予防を請求することができる、

(二) 本件では、上告人が本件ブロック塀を設置して、被上告人の前記の自由権(人格権)を侵害しているのに、特定行政庁(中野区長)は、二年以上もの間にわたり、工事停止命令の一部違反の状態を放置しており、その結果、被上告人は、生命、健康、財産の保護を全うされない状況下に置かれているのであるから、右自由権(人格権)に基づき本件ブロック塀の収去を請求できる、

(三) 本件ブロック塀の外側(南側)に約三メートル幅の通路状の土地部分があることは、右自由権(人格権)に基づく被上告人の妨害排除請求を妨げるに足りないと説示して、被上告人の本訴請求のうち本件ブロック塀の収去を求める請求を認容すべきものと判断した。

 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
上告人は、建築基準法四二条二項に規定する指定がされた本件道路指定土地内に同法四四条一項に違反する建築物である本件ブロック塀を設置したものであるが、このことから直ちに、本件道路指定土地に隣接する土地の地上建物の所有者である被上告人に、本件ブロック塀の収去を求める私法上の権利があるということはできない。

原審は、これを肯定する理由として、被上告人の人格権としての自由権が侵害されたとするが、前示事実関係によれば、本件ブロック塀の内側に位置する上告人の所有地のうち、上告人が従前設置していた塀の内側の部分は、現実に道路として開設されておらず、被上告人が通行していたわけではないから、右部分については、自由に通行し得るという反射的利益自体が生じていないというべきであるし(最高裁平成三年四月一九日第二小法廷判決)、また、本件ブロック塀の設置により既存の通路の幅員が狭められた範囲はブロック二枚分の幅の程度にとどまり、本件ブロック塀の外側(南側)には公道に通ずる通路があるというのであるから、被上告人の日常生活に支障が生じたとはいえないことが明らかであり、本件ブロック塀が設置されたことにより被上告人の人格的利益が侵害されたものとは解し難い。

そうすると、同法四二条二項に規定する指定がされた土地を通行等に利用することが、特定の私人にとっては、自由権(人格権)として民法上の保護に値するとする原審の判断の理論的当否について論ずるまでもなく、被上告人の人格権が侵害されたことを前提として被上告人の本訴請求のうち妨害排除請求を認容すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

論旨は理由があり、他の上告理由について判断するまでもなく、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記説示に徴すれば、被上告人の妨害排除請求は理由がないことに帰し、これと結論を同じくする第一審判決は正当であるから、右部分に関する被上告人の控訴は、理由がなく、これを棄却すべきものである。