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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 譲渡担保の設定が詐害行為にならないとされた事例

 昭和44年12月19日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
牛乳小売業者が、継続的に牛乳の卸売を受けて来た仕入先に対し、右取引上の債務を担保するため、所有店舗に根抵当権を設定し代物弁済の予約を結んでいた場合において、代金の支払を遅滞したため、取引を打ち切り担保権を実行する旨の通知を受けるに及んで、これを免れて従前どおりの営業の継続をはかる目的のもとに、原判示(原判決理由参照)のように、右仕入先と示談のうえ、債務の支払猶予を受け、前記店舗を営業用動産や営業権等とともに現在および将来の債務の担保として譲渡担保に供したとき、右行為は、当時の諸般の事情に照らし、営業を継続するための仕入先に対する担保提供行為として合理的限度をこえず、かつ、他に適切な更生の道がなかつたものと認められるかぎり、詐害行為とならない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/916/051916_hanrei.pdf

原審の事実認定は、挙示の証拠関係に照らし首肯することができる。

そして、右事実関係に徴すれば、本件建物その他の資産を被上告会社に対して譲渡担保に供した行為は、被上告会社に対する牛乳類の買掛代金二四四万円の支払遅滞を生じた訴外有限会社D乳業食品およびその代表取締役Eが、被上告会社からの取引の打切りや、本件建物の上の根抵当権の実行ないし代物弁済予約の完結を免れて、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続して更生の道を見出すために、示談の結果、支払の猶予を得た既存の債務および将来の取引によつて生ずべき債務の担保手段として、やむなくしたところであり、当時の諸般の事情のもとにおいては、前記の目的のための担保提供行為として合理的な限度を超えたものでもなく、かつ、かかる担保提供行為をしてでも被上告会社との間の取引の打切りを避け営業の継続をはかること以外には、右訴外会社の更生策として適切な方策は存しなかつたものであるとするに難くない。

債務者の右のような行為は、それによつて債権者の一般担保を減少せしめる結果を生ずるにしても、詐害行為にはあたらないとして、これに対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当であり、これと同旨の見解に立つて本件につき詐害行為の成立を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。

論旨は、原審の認定しない事実関係および叙上と異なる見解を前提として原判決の違法をいうものであり、採用することができない。