最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

相手方の陳述した事実に基づいてする訴の変更は請求の基礎に変更がある場合にも許されるか。

昭和39年7月10日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
 一 相手方の陳述した事実に基づいて訴の変更をする場合には、請求の基礎に変更があるときでも、相手方の同意の有無にかかわらず、訴の変更は許されると解すべきである。

二 前項の場合における相手方の陳述した事実には、いわゆる積極否認の内容となる間接事実も含まれると解すべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/849/053849_hanrei.pdf

相手方の提出した防禦方法を是認したうえその相手方の主張事実に立脚して新たに請求をする場合、すなわち相手方の陳述した事実をとってもって新請求の原因とする場合においては、かりにその新請求が請求の基礎を変更する訴の変更であっても、相手方はこれに対し異議をとなえその訴の変更の許されないことを主張することはできず、相手方が右の訴の変更に対し現実に同意したかどうかにかかわらず、右の訴の変更は許されると解するのが相当である(大審判昭和九年三月一三日民集一三巻四号二八七頁参照)。

そして、右の場合において、相手方の陳述した事実は、かならずしも、狭義の抗弁、再々抗弁などの防禦方法にかぎられず、相手方において請求の原因を否認して附加陳述するところのいわゆる積極否認の内容となる重要なる間接事実も含まれると解すべきである。
ところで、原審判決(一審判決引用、以下同じ。)および一件記録によると、被上告人は、当初、上告人先代Dに対し係争家屋が被上告人の所有に属するとしてその所有権にもとづき係争家屋の明渡ならびに延滞賃料および賃料相当損害金の支払を請求したところ、同人は、係争家屋は被上告人所有のもとの家屋を取りこわしたうえあらたに建築して上告人先代Dの所有に属する旨主張して積極的に被上告人の所有権を否認した。

そこで、被上生人は上告人先代Dが先に陳述したところに従い係争家屋の所有権が同人に属することを前提として、あらためて本件土地の所有権にもとづき同人に対し係争家屋の収去とその敷地の明渡の請求を、第一審において、予備的に追加したことが認められる。 

右訴訟の経過によると、本件においては、被上告人は、係争家屋の収去とその敷地の明渡の請求を、上告人先代Dの提出したいわゆる積極否認にかかる事実を是認したうえこれにもとづいて新たに右請求を予備的に追加したものと認められるから、前段説示のところから明らかなとおり、右の訴の変更は許容するのが相当である。

それゆえ、被上告人のした新の追加的変更を許容した原審判決の判断は相当というべぎであり、原審には、所論のような違法はない。