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広島市暴走族追放条例(平成14年広島市条例第39号)16条1項1号,17条,19条の規定を限定解釈により憲法21条1項,31条に違反しないとした事例

平成19年9月18日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
広島市暴走族追放条例(平成14年広島市条例第39号)16条1項1号にいう「集会」は,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団によって行われるものに限定されると解され,このように解釈すれば,同条例16条1項1号,17条,19条は,憲法21条1項,31条に違反しない。
(補足意見及び反対意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=35114

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/114/035114_hanrei.pdf

弁護人の上告趣意のうち,広島市暴走族追放条例(平成14年広島市条例第39号。以下「本条例」という。)16条1項1号,17条,19条の各規定が文面上も内容上も憲法21条1項,31条に違反するとの主張について

(1) 原判決が是認する第1審判決によれば,被告人は,観音連合などの暴走族構成員約40名と共謀の上,平成14年11月23日午後10時31分ころから,広島市が管理する公共の場所である広島市中区所在の「広島市西新天地公共広場」において,広島市長の許可を得ないで,所属する暴走族のグループ名を刺しゅうした「特攻服」と呼ばれる服を着用し,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,旗を立てる等威勢を示して,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるような集会を行い,同日午後10時35分ころ,同所において,本条例による広島市長の権限を代行する広島市職員から,上記集会を中止して上記広場から退去するよう命令を受けたが,これに従わず,引き続き同所において,同日午後10時41分ころまで本件集会を継続し,もって,上記命令に違反したものである。
本条例は,16条1項において,「何人も,次に掲げる行為をしてはならない。」と定め,その1号として「公共の場所において,当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと」を掲げる。そして,本条例17条は,「前条第1項第1号の行為が,本市の管理する公共の場所において,特異な服装をし,顔面の全部若しくは一部を覆い隠し,円陣を組み,又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは,市長は,当該行為者に対し,当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。」とし,本条例19条は,この市長の命令に違反した者は,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処するものと規定している。
第1審判決は,被告人の行為が上記の本条例19条,16条1項1号,17条に該当するとして,被告人に懲役4月,3年間刑執行猶予の有罪判決を言い渡した。
なお,本条例2条7号は,暴走族につき,「暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において,公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で,い集,集会若しくは示威行為を行う集団をいう。」と定義しているところ,記録によれば,上記観音連合など本件集会参加者が所属する暴走族は,いずれも暴走行為をすることを目的として結成された集団,すなわち社会通念上の暴走族にほかならず,暴力団の準構成員である被告人は,これら暴走族の後ろ盾となることにより事実上これを支配する「面倒見」と呼ばれる地位にあって,本件集会を主宰し,これを指揮していたものと認められる。

(2) 所論は,本条例16条1項1号,17条,19条の規定の文言からすれば,その適用範囲が広範に過ぎると指摘する。
なるほど,本条例は,暴走族の定義において社会通念上の暴走族以外の集団が含まれる文言となっていること,禁止行為の対象及び市長の中止・退去命令の対象も社会通念上の暴走族以外の者の行為にも及ぶ文言となっていることなど,規定の仕方が適切ではなく,本条例がその文言どおりに適用されることになると,規制の対象が広範囲に及び,憲法21条1項及び31条との関係で問題があることは所論のとおりである。しかし,本条例19条が処罰の対象としているのは,同17条の市長の中止・退去命令に違反する行為に限られる。そして,本条例の目的規定である1条は,「暴走行為,い集,集会及び祭礼等における示威行為が,市民生活や少年の健全育成に多大な影響を及ぼしているのみならず,国際平和文化都市の印象を著しく傷つけている」存在としての「暴走族」を本条例が規定する諸対策の対象として想定するものと解され,本条例5条,6条も,少年が加入する対象としての「暴走族」を想定しているほか,本条例には,暴走行為自体の抑止を眼目としている規定も数多く含まれている。また,本条例の委任規則である本条例施行規則3条は,「暴走,騒音,暴走族名等暴走族であることを強調するような文言等を刺しゅう,印刷等をされた服装等」の着用者の存在(1号),「暴走族名等暴走族であることを強調するような文言等を刺しゅう,印刷等をされた旗等」の存在(4号),「暴走族であることを強調するような大声の掛合い等」(5号)を本条例17条の中止命令等を発する際の判断基準として挙げている。このような本条例の全体から読み取ることができる趣旨,さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば,本条例が規制の対象としている「暴走族」は,本条例2条7号の定義にもかかわらず,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され,したがって,市長において本条例による中止・退去命令を発し得る対象も,被告人に適用されている「集会」との関係では,本来的な意味における暴走族及び上記のようなその類似集団による集会が,本条例16条1項1号,17条所定の場所及び態様で行われている場合に限定されると解される。
そして,このように限定的に解釈すれば,本条例16条1項1号,17条,19条の規定による規制は,広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと,規制に係る集会であっても,これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく,市長による中止命令等の対象とするにとどめ,この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると,その弊害を防止しようとする規制目的の正当性,弊害防止手段としての合理性,この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし,いまだ憲法21条1項,31条に違反するとまではいえないことは,最高裁昭和49年11月6日大法廷判決,最高裁平成4年7月1日大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。

(3) なお,所論は,本条例16条1項1号,17条,19条の各規定が明確性を欠き,憲法21条1項,31条に違反する旨主張するが,各規定の文言が不明確であるとはいえないから,所論は前提を欠く。

(4) 以上のとおりであり,原判決に所論の違憲はなく,論旨は採用することができない。

2 弁護人のその余の上告趣意は,広島市の被告人らに対する中止及び退去命令の違憲をいうものであるが,実質は単なる法令違反の主張であり,適法な上告理由に当たらない。