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株式の譲渡につき名義書換が未了の場合会社はその譲渡を認めることができるか。 株主総会決議取消の訴と裁判所の裁量権。

昭和30年10月20日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
一 商法旧第二〇六条(昭和二五年法律第一六七号による改正前のもの)の施行当時、記名株式の譲渡があつたにかかわらず株主名簿の名義書換が会社の都合でおくれていても、会社が右譲渡を認め譲受人を株主として取り扱うことは妨げないと解するのが相当である。
二 株主総会決議取消の訴において、当該決議に取消の原因となるべき違法の点があつても、その違法が決議の結果に異動を及ぼすと推測されるような事情が認められない場合には、裁判所は原告の請求を棄却するべきもの解するのが相当である。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57402

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/402/057402_hanrei.pdf

 論旨第一点について。
 商法二〇六条一項(昭和二五年法律一六七号による改正前の、本件株主総会決議当時の同条項をいう。)によれば、記名株式の移転は、取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載しなければ会社には対抗できないが、会社からは右移転のあつたことを主張することは妨げない法意と解するを相当とする。従つて、本件においては、訴外Dが訴外Eの被上告会社の株式一〇株を譲り受けたことについて、株主名簿に記載してないことは所論のとおりであるが、それは右譲渡をもつて被上告会社に対抗し得ないというに止まり、会社側においては、株主名簿の書換が何らかの都合でおくれていても、右株式の譲渡を認めて譲受人Dを株主として取り扱うことを妨げるものではない。そして仮に所論のとおり、会杜がDを株主名簿の記載により五〇〇株の株主と認めてこれに株主総会招集の通知を発したものであるとしても、原審は、証拠により、Dが昭和一八年一二月一日Eから被上告会社の株式一〇株を譲り受け、その頃被上告会社に名義書換を請求したことを認定しているのであるから、被上告会社が、Dを、その所有株数を何程と認めたかは別として、株主と認めてこれに株主総会招集の通知を発したこと及びこれに基き同人が株主総会に出頭したこと自体は、結局において違法ということはできない。それ故所論は採用できない。
 同第二点について。
 原審は証拠により昭和一八年一二月一日EよりDへ被上告会社の株式一〇株が譲渡されたことを認定した上、本件株主総会当時Dは少くとも一〇株の株主であつたものと認めるのを相当とすると判示しているのである。それ故原判決には所論のような違法は認められない。
 同第三点、第四点について。
 原審は、本件において、株主総会の決議事項について特別の利害関係を有する株主の株式を表決から除外する措置をとらなかつたこと、株主でない者に株主総会招集の通知を発したこと等の違法があつたとしても、若しそのような違法がなかつたならば決議の結果が違つたかもしれないと推測されるような事情は、乙一号証によつて認めうる本件株主総会の経過、その他の証拠から見て、存在しないと認定し、そのような場合においては、裁判所は株主総会の決議の取消請求を許容すべきでなく、そのことは、商法二五一条が昭和二五年法律一六七号商法の一部を改正する法律によつて削除されたと否とに拘らない旨を判示した。思うに、商法二五一条は、昭和二五年法律一六七号商法の一部を改正する法律によつて削除されたが、それは、従来の同条の規定が、裁判所に一切の事情の斟酌を許し、従つてその裁量権を余り広汎に認めすぎる如く解されるおそれがあつたため削除されたものであつて、商法二四七条によつて提起された株主総会の決議取消の訴訟において裁判所が合理的な判断の下に右取消請求を認容するか否かを決しうることまでも否定しようとする趣旨と解すべきではなく、たとえ株主総会招集の手続又はその決議の方法が違法であつても、株主総会における議事の経過その他から判断して、その違法が決議の結果に異動を及ぼすと推測されるような事情の存在は認められないと原審の認定した本件のような場合(原審の右認定は当審においても是認できる。)において本件請求を棄却した原判示は正当であつて、所論は理由がない。