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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

婚姻無効確認請求

昭和44年4月3日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理により婚姻は有効に成立する。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54015

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/015/054015_hanrei.pdf

 上告代理人の上告理由第一点について。
 被上告人らがEと上告人との婚姻を無効とすることを訴求する法律上の利益を有する旨の原判決(その引用する第一審の判決を含む。以下同じ。)の判断は、その挙示する証拠関係に照らして首肯することができるから、原判決に所論の違法はない。論旨引用の判例は、いずれも本件と事案を異にして本件に適切でない。したがつて、論旨は採用しえない。
 同第二点について。
 原判決の確定した事実によれば、本件婚姻届は、訴外Dが昭和四〇年四月五日午前九時一〇分前後に盛岡市役所に持参し、係員に交付して受理されたものであり、一方、Eは、昭和三九年九月頃より肝硬変症で入院していたが、昭和四〇年四月三日頃より病状が悪化し、同月四日朝から完全な昏睡状態に陥り、同月五日午前一〇時二〇分死亡するに至つたというのであつて、原審は右の状態の下における届出は意思能力ない者の届出として無効であるとしたのである。しかしながら、本件婚姻届がEの意思に基づいて作成され、同人がその作成当時婚姻意思を有していて、同人と上告人との間に事実上の夫婦共同生活関係が存続していたとすれば、その届書が当該係官に受理されるまでの間に同人が完全に昏睡状態に陥り、意識を失つたとしても、届書受理前に死亡した場合と異なり、届出書受理以前に翻意するなど婚姻の意思を失う特段の事情のないかぎり、右届書の受理によつて、本件婚姻は、有効に成立したものと解すべきである。もしこれに反する見解を採るときは、届書作成当時婚姻意思があり、何等この意思を失つたことがなく、事実上夫婦共同生活関係が存続しているのにもかゝわらず、その届書受理の瞬間に当り、たまたま一時的に意識不明に陥つたことがある以上、その後再び意識を回復した場合においてすらも、右届書の受理によつては婚姻は有効に成立しないものと解することとなり、きわめて不合理となるからである。しかるに、原判決は、婚姻届受理当時、Eが完全な昏睡状態に陥り意思能力がなかつたことが明らかであるといい、その一事を前提として同人には婚姻をなす合意があつたとはいえず、本件婚姻は無効であると判示したものであるから、原判決は、所論のように、法律の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。したがつて、原判決は、破棄を免れず、本件婚姻届がEの婚姻の意思に基づいて作成されたか、その後届書が受理されるまでに翻意するなど婚姻の意思を失う特段の事情があつたかどうか等の各点につき、さらに審理の必要あるものと認め、本件を原審に差し戻すのを相当とする。