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被告人を死刑に処した裁判員裁判による第1審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の量刑が維持された事例

平成27年2月3日最高裁判所第二小法廷決定

裁判要旨    
殺人等の罪により懲役20年の刑に服した前科がある被告人が被害者1名を殺害した住居侵入,強盗殺人の事案において,本件犯行とは関連が薄い前記前科があることを過度に重視して死刑に処した裁判員裁判による第1審判決の量刑判断が合理的ではなく,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断して同判決を破棄し無期懲役に処したものと解される原判決の刑の量定は,甚だしく不当で破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84840

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/840/084840_hanrei.pdf

検察官の所論に鑑み,本件量刑について,職権により判断する。

第1 事案の概要等

1 本件犯罪事実の要旨
被告人は,金品を強奪する目的で,東京都港区南青山のマンションの被害男性方居室に無施錠の玄関ドアから侵入し,室内にいた当時74歳の被害男性を発見し,同人を殺害して金品を強奪しようと決意し,殺意をもって,その頸部をステンレス製三徳包丁で突き刺し,同人を頸部刺創に基づく左右総頸動脈損傷による失血により死亡させた。

2 第1審判決が死刑を選択した量刑理由の要旨
本件を裁判員の参加する合議体で取り扱った第1審判決は被告人を死刑に処したが,その理由の要旨は,以下のとおりである。

最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁(以下「昭和58年判決」という。)において示された死刑選択の際の考慮要素やそれ以降の量刑傾向を踏まえ,被告人に対する刑を検討したが,とりわけ,殺意が強固で,強盗目的を遂げるため抵抗の余地のない被害者を一撃で殺害するなど,殺害の態様等が冷酷非情なものであること,その結果が極めて重大であること,2人の生命を奪った殺人の罪等で懲役20年に処された前科がありながら,出所後半年で金品を強奪する目的で被害者の生命を奪ったことは,刑を決める上で特に重視すべきであり,被告人のために酌むべき事情がないかどうかを慎重に検討しても,死刑とするほかない。

3 原判決が第1審判決を破棄して無期懲役に処した理由の要旨
原判決は,第1審判決を破棄し,被告人を無期懲役に処したが,その理由の要旨は,以下のとおりである。
死刑は,窮極の峻厳な刑であり,慎重に適用すべきであることはいうまでもない。死刑が相当かどうかは,昭和58年判決に示された考慮要素を検討した上で,過去の先例の集積からうかがわれる傾向を,事件の重大さの程度を評価する資料となり得るという意味で参考として判断すべきである。本件では,殺意が強固で殺害の態様等が冷酷非情であり,結果が極めて重大であることは第1審判決指摘のとおりであるが,被害者が1名であり,侵入時に殺意があったとは確定できず,殺害について事前に計画したり,当初から殺害の決意を持っていたとはいえないのであって,前科を除く諸般の情状を検討した場合,死刑を選択するのが相当とは言い難い。そして,殺害された被害者が1名の強盗殺人罪のうち,前科が重視されて死刑が選択された事案の多くは,殺人罪・強盗殺人罪により無期懲役に処され仮釈放中の者が,再度,前科と類似性のある強盗殺人罪に及んだという事案,又は,無期懲役に準ずる相当長期の有期懲役に処された者であって,その前科の内容となる罪と新たに犯した強盗殺人罪との間に顕著な類似性が認められる事案である。本件では,被告人の前科は無期懲役に準ずる相当長期の有期懲役であり,その前科は利欲目的の本件強盗殺人とは社会的にみて類似性は認められず,また,もはや改善更生の可能性がないことが明らかとは言い難く,実際にも,被告人が更生の意欲を持って努力したが,前科の存在が就職にも影響して何事もうまくいかず,自暴自棄になった末の犯行の面があることも否定できず,被告人の前科の評価に関しては,このような留意し酌量すべき点がある。したがって,前科を重視して死刑を選択することには疑問があり,第1審判決は,人の生命を奪った前科があることを過度に重視した結果,死刑を選択した誤りがある。

第2 当裁判所の判断

1 被告人は,手っ取り早く自由になる金銭を欲し,包丁を用意して強盗目的で被害者方に侵入した上,就寝中の被害者に対し,いきなり首に包丁を突き刺して確実に即死させたものである。被告人は,被害者を見付けた段階では強固な殺意を抱き,前記のとおり,冷酷非情な態様で被害者を殺害した。本件は,重大かつ悪質な犯行といわざるを得ず,被害者の遺族の処罰感情が極めて厳しいのも十分理解できる。また,被告人は,妻を刺殺し,幼少の二人の子を殺害しようとして自宅に放火し,娘一人を焼死させたという殺人,殺人未遂,現住建造物等放火の罪を犯し,懲役20年の刑に服した前科がありながら,出所した後半年で本件に及んだものである。被告人の刑事責任は誠に重いというほかない。

2 しかしながら,刑罰権の行使は,国家統治権の作用により強制的に被告人の法益を剥奪するものであり,その中でも,死刑は,懲役,禁錮,罰金等の他の刑罰とは異なり被告人の生命そのものを永遠に奪い去るという点で,あらゆる刑罰のうちで最も冷厳で誠にやむを得ない場合に行われる究極の刑罰であるから,昭和58年判決で判示され,その後も当裁判所の同種の判示が重ねられているとおり,その適用は慎重に行われなければならない。また,元来,裁判の結果が何人にも公平であるべきであるということは,裁判の営みそのものに内在する本質的な要請であるところ,前記のように他の刑罰とは異なる究極の刑罰である死刑の適用に当たっては,公平性の確保にも十分に意を払わなければならないものである。もとより,量刑に当たり考慮すべき情状やその重みは事案ごとに異なるから,先例との詳細な事例比較を行うことは意味がないし,相当でもない。しかし,前記のとおり,死刑が究極の刑罰であり,その適用は慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点からすると,同様の観点で慎重な検討を行った結果である裁判例の集積から死刑の選択上考慮されるべき要素及び各要素に与えられた重みの程度・根拠を検討しておくこと,また,評議に際しては,その検討結果を裁判体の共通認識とし,それを出発点として議論することが不可欠である。このことは,裁判官のみで構成される合議体によって行われる裁判であろうと,裁判員の参加する合議体によって行われる裁判であろうと,変わるものではない。

そして,評議の中では,前記のような裁判例の集積から見いだされる考慮要素として,犯行の罪質,動機,計画性,態様殊に殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等が取り上げられることとなろうが,結論を出すに当たっては,各要素に与えられた重みの程度・根拠を踏まえて,総合的な評価を行い,死刑を選択することが真にやむを得ないと認められるかどうかについて,前記の慎重に行われなければならないという観点及び公平性の確保の観点をも踏まえて議論を深める必要がある。

その上で,死刑の科刑が是認されるためには,死刑の選択をやむを得ないと認めた裁判体の判断の具体的,説得的な根拠が示される必要があり,控訴審は,第1審のこのような判断が合理的なものといえるか否かを審査すべきである。

3 このような観点から第1審判決をみると,第1審判決は,前記1と同旨の事情を挙げており,その認定自体に誤りがあるとはいえない。しかしながら,第1審判決が死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の根拠については,次のような疑問がある。
まず,第1審判決は,刑を決める上で特に重視すべき事情として,「殺意が強固で殺害の態様等が冷酷非情であり,その結果が極めて重大であること」を指摘している。殺害された被害者が1名の事案においても,死刑を選択することがやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもなく,本件が重大かつ悪質な事案であることも前記1のとおりである。

しかしながら,本件は,被害者方への侵入時に殺意があったとまでは確定できない事案であり,殺害について事前に計画し,又は当初から殺害の決意をもって犯行に臨んだ事案とは区別せざるを得ない。早い段階から被害者の死亡を意欲して殺害を計画し,これに沿って準備を整えて実行した場合には,生命侵害の危険性がより高いとともに生命軽視の度合いがより大きく,行為に対する非難が高まるといえるのに対し,かかる計画性があったといえなければ,これらの観点からの非難が一定程度弱まるといわざるを得ないからである。
本件については,かかる計画性があったとはいえず,また,前科に関する情状を除くその他の要素を総合的に評価した場合,死刑を選択するのがやむを得ない事案であるとは言い難いところである。
第1審判決は,その他特に重視すべき事情として,「2人の生命を奪った殺人の罪等で懲役20年に処された前科がありながら,金品を強奪する目的で被害者の生命を奪ったこと」を挙げているところ,これは,被告人に殺人罪等による相当長期の有期懲役の前科があることの指摘にほかならない。しかしながら,人を殺害した罪で有期懲役に処された前科を有する者が,その刑を受け終わった後に1名を殺害する強盗殺人に及んだ事案については,死刑が選択された事案と,無期懲役が選択された事案が存在することからもうかがわれるとおり,有期懲役の前科があってその服役後に再度の犯行に及んだ場合の,再度の犯行に対する非難の程度については,前科と再度の犯行との関連,再度の犯行に至った経緯等を具体的に考察して,個別に判断せざるを得ないものというべきである。

これを本件についてみると,本件強盗殺人という自己の利欲目的の犯行である点や犯行の経緯と,第1審判決が重視する前科の内容,すなわち,口論の上妻を殺害し,子の将来を悲観して道連れに無理心中しようとした犯行とは関連が薄い上,被告人は,刑の執行を受け終わり,更生の意欲をもって就職するも前科の存在が影響して職を維持できず,自暴自棄となった末に本件強盗殺人に及んだとみる余地があるのであって,本件強盗殺人の量刑に当たり,前記のような前科の存在を過度に重視するのは相当ではない。
以上のとおり,前科を除く諸般の情状からすると死刑の選択がやむを得ないとはいえない本件において,被告人に殺人罪等による相当長期の有期懲役の前科があることを過度に重視して死刑を言い渡した第1審判決は,死刑の選択をやむを得ないと認めた判断の具体的,説得的な根拠を示したものとは言い難い。第1審判決を破棄して無期懲役に処した原判決は,第1審判決の前記判断が合理的ではなく,本件では,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断したものと解されるのであって,その結論は当審も是認することができる。したがって,原判決の刑の量定が甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。