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 ゴルフ場経営を目的とする地上権設定契約及び土地賃貸借契約につき借地借家法11条(地代等増減請求権)の類推適用をする余地はないとされた事例

平成25年1月22日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
 地上権設定契約及び土地賃貸借契約において,ゴルフ場経営を目的とすることが定められているにすぎず,当該土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかがわれないという事実関係の下においては,借地借家法11条の類推適用をする余地はない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/909/082909_hanrei.pdf

 1 本件の本訴請求は,上告人から賃借し又は地上権の設定を受けた第1審判決別紙物件目録記載の25筆の土地(「本件土地」)を利用してゴルフ場を経営している被上告人が,上告人に対し,

①当初に合意された地代及び土地の借賃(「地代等」)がその後の事情により不相当に高額となっているとして,減額された地代等の額の確認,

②支払済みの地代等のうち正当とされる額を超える部分の返還とこれに対する借地借家法11条3項ただし書所定の年1割の割合による利息の支払をそれぞれ求めるものであり,

反訴請求は,上告人が被上告人に対し,

①当初に合意された地代等を前提に,平成21年から平成23年までの地代等の未払分とこれに対する年6分の割合による遅延損害金の支払,

②本件土地の固定資産税の一部を被上告人が負担する旨の合意に基づき,その未払分とこれに対する年6分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めるものである。なお,反訴請求①のうち平成23年の未払分とこれに対する遅延損害金の支払を求める部分(主文第1項(2)に相当するもの)は,原審で追加されたものである。

本件においては,上記の地上権及び土地賃借権につき,借地借家法11条の類推適用が認められるか否かが主な争点となっている。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 本件土地につき所有権又は共有持分権を有する上告人は,昭和63年7月28日,Aとの間で,本件土地のうちの13筆について地上権設定契約を,その余の12筆について賃貸借契約をそれぞれ締結した(以下,上記両契約を併せて「本件契約」という。)。上告人とAは,その際に,本件契約の存続期間中は本件土地の固定資産税のうち4万0238円を超える部分をAが負担する旨の合意(「本件税負担合意」)をした。
 本件契約では,地代等を合計年額737万7690円とすること,地代等の弁済期を毎年4月1日とすること,ゴルフ場経営を目的とすることが定められた。
 本件税負担合意では,Aが負担する金銭の弁済期は毎年12月末日とされた。

 (2) その後,本件契約の地上権者及び賃借人の地位は転々と譲渡され,被上告人は,上告人の承諾を得て,平成18年9月1日,上記地位を取得した。被上告人は,それ以来,本件土地を利用してゴルフ場を経営している。

 (3) 被上告人は,平成19年3月12日頃,上告人に対し,本件契約の地代等について減額の意思表示をした。

 (4) 被上告人は,平成21年4月1日支払分及び平成22年4月1日支払分の地代等並びに平成23年4月1日支払分の地代等のうち134万1690円を支払っていない。
 また,本件税負担合意に基づき被上告人が負担すべき額は,平成20年12月末日支払分が94万8655円,平成21年12月末日支払分が87万9283円,平成22年12月末日支払分が87万9721円であるが,被上告人はこれらも支払っていない。

 (5) 被上告人は,本件訴訟において,正当とされる地代等の額は合計年額427万9060円であると主張している。

 3 原審は,反訴請求②を全部認容すべきものとしたほか,次のとおり判断して,本訴請求①及び②並びに反訴請求①をいずれも一部認容すべきものとした。
 借地借家法11条の立法趣旨の基礎にある事情変更の原則や契約当事者間における公平の理念に照らせば,建物の所有を目的としない本件契約においても同条1項及び3項ただし書の類推適用を認めるのが相当である。

 4 しかしながら,原審の借地借家法11条の類推適用に関する上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 借地借家法は,建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権に関し特別の定めをするものであり(同法1条),借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しており(同法2条1号),同法の借地に関する規定は,建物の保護に配慮して,建物の所有を目的とする土地の利用関係を長期にわたって安定的に維持するために設けられたものと解される。同法11条の規定も,単に長期にわたる土地の利用関係における事情の変更に対応することを可能にするというものではなく,上記の趣旨により土地の利用に制約を受ける借地権設定者に地代等を変更する権利を与え,また,これに対応した権利を借地権者に与えるとともに,裁判確定までの当事者間の権利関係の安定を図ろうとするもので,これを建物の所有を目的としない地上権設定契約又は賃貸借契約について安易に類推適用すべきものではない。

本件契約においては,ゴルフ場経営を目的とすることが定められているにすぎないし,また,本件土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかがわれないから,本件契約につき借地借家法11条の類推適用をする余地はないというべきである。

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり,原判決中,本訴請求①及び②並びに反訴請求①の上告人敗訴部分は,いずれも破棄を免れない。そして,本件において事情変更の原則により地代等の減額がされるべき事情はうかがえず,本訴請求①及び②を全部棄却し,反訴請求①を全部認容すべきであるから,これに従って原判決を変更することとする。
 なお,原判決における控訴の趣旨の記載中,「1746万3049円」とあるのは,「1746万3039円」とすべきものであることが明らかであり,明白な誤りがあるから,職権により主文第2項のとおり更正する。

 

借地借家法

(地代等増減請求権)
第十一条 地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。