賃貸人が地上の建物の不存在を理由に借地人の借地法四条一項に基づく借地権の更新請求権がないと主張することが信義則上許されないとされた事例
昭和52年3月15日最高裁判所第三小法廷判決
裁判要旨
従前の土地の賃借人が、仮換地上に移築し、所有していた建物が火災によつて滅失したのち、その再築をしょうとしたのに、賃貸人の建築禁止通告及びこれに続く仮換地明渡調停の申立によつて建物の築造を妨げられ、その結果、賃貸借期間満了の際、仮換地上に建物を所有することができない状態となるに至つたなど判示の事情がある場合において、賃貸人が地上の建物の不存在を理由に借地人の借地法四条一項に基づく借地権の更新請求権がないと主張して争うことは、信義則上許されない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/524/074524_hanrei.pdf
原審が適法に確定したところによれば、
(1)被上告人の先代Dは、Eからその所有する平塚市a字b町通c番d宅地三一一・九九平方メートル(「本件土地」)を木造建物所有の目的で賃借し、昭和二八年に右賃貸借の期間は昭和四八年一〇月一二日までと改定されたが、その後Eは死亡してFが同人を相続し、更にFの死亡により上告人が同人を相続して本件土地の所有権及び賃貸人の地位を承継し、またDも死亡して被上告人が同人を相続し、賃借人の地位を承継した、
(2)被上告人は、本件土地上に甲、乙二棟の建物を所有していたが、昭和四五年ころ本件土地が土地区画整理の対象となり、その仮換地(「本件仮換地」)が指定されたので、昭和四六年中に甲建物を取り壊し、また、乙建物を本件仮換地上に移築した、
(3)乙建物は昭和四八年五月ころ第三者の失火により焼失したところ、その翌々日、上告人は、被上告人に対し、建物の再築禁止を通告するとともに、本件仮換地の明渡を求め、そのため被上告人が建物建築計画を進めることができないでいるうち、昭和四八年六月一一日本件仮換地明渡の調停を申し立て、右調停は昭和四九年三月二五日不調となつたが、調停係属中昭和四八年一〇月一二日賃貸借の期間が満了した、というのである。
以上の事実関係によれば、被上告人は、乙建物が火災によつて滅失したのち本件仮換地上に建物を再築しようとしたのに、上告人の建築禁止通告及びこれに続く本件仮換地明渡調停の申立によつて建物の築造を妨げられ、その結果、賃貸借期間満了の際本件仮換地上に建物を所有することができない状態となるに至つたものであることが明らかであつて、このような場合、上告人が地上の建物の不存在を理由として被上告人に借地法四条一項に基づく借地権の更新を請求する権利がないと主張して争うことは、信義則上許されないものと解するのが相当である。
これと同旨の見地に立つて、被上告人の同条項に基づく更新請求権を肯認した原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。
所論引用の判例は、罹災又は疎開によつて建物を失つた残存期間の短い借地権者の借地権の存続を確保して借地権者の地位を安定し、建物築造を促して建物復興に協力させることを目的とした罹災都市借地借家臨時処理法一一条の適用を受けて特に延長された借地権の更新に関するものであつて、事案を異にし、本件に適切ではない。論旨は、採用することができない。