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不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは許されるか

平成22年12月16日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは許されない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/936/080936_hanrei.pdf

1 本件の本訴請求は,上告人が,被上告人らに対し,上告人及び被上告人らの共有名義で登記されている第1審判決別紙物件目録記載1の土地(「本件土地」)について共有物分割を求めるなどするものであり,反訴請求は,被上告人X1が,上告人に対し,本件土地につき,真正な登記名義の回復を原因とする上告人持分全部移転登記手続を求めるものである。

2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1)ア 本件土地は,上告人がもと所有していた。

イ 上告人は,昭和63年9月ころ,Aに対し,本件土地を贈与した(「本件贈与」)。

ウ Aは,平成17年1月10日,死亡し,その共同相続人の一人である被上告人X1が,遺産分割協議により,本件土地を単独で取得した(以下,この相続を「本件相続」という。)。

(2) 本件土地については,持分10分の3の上告人名義の持分登記がある。

(3) 被上告人X1は,反訴の請求原因として,本件贈与と本件相続の事実を主張する。

3 原審は,上記事実関係等の下において,本件土地は被上告人X1の単独所有であるなどとして,本訴請求を棄却すべきものと判断する一方,被上告人X1の反訴請求を認容すべきものと判断した。

4 しかしながら,原審の上記判断中,反訴請求に関する部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし,許されないものというべきである。

これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件土地の所有権は,本件贈与により上告人からAに,本件相続によりAから被上告人X1に,順次移転したにもかかわらず,上告人名義の持分登記がなお残っているというのであるから,被上告人X1としては,上告人名義で登記されている持分につき,①上告人からAに対する本件贈与を原因とする移転登記手続を請求し,その認容判決を得た上で,②Aから被上告人X1に対する本件相続を原因とする持分移転登記手続をすべきであって,このような場合に,真正な登記名義の回復を原因として,直接上告人から被上告人X1に対する持分移転登記手続を請求することは許されないというべきである。

被上告人X1の反訴請求を認容すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。

論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,反訴請求に関する部分は破棄を免れない。
そして,本件訴訟における被上告人X1の主張立証にかんがみると,被上告人X1の反訴請求は,これを合理的に解釈すれば,その反訴請求の趣旨の記載にかかわらず,予備的に,本件土地について本件贈与を原因とする上告人からAに対する上告人持分全部移転登記手続を求める趣旨を含むものであると理解する余地があり,そのような趣旨の請求であれば,前記事実関係等の下では,特段の事情のない限り,これを認容すべきものである。

そうであれば,被上告人X1の反訴請求については,事実審において,適切に釈明権を行使するなどして,これが上記の趣旨の請求を含むものであるのか否かにつき明らかにした上,これが上記の趣旨の請求を含むものであるときは,その当否について審理判断すべきものと解される。したがって,上記の観点から,反訴請求につき,更に審理を尽くさせるため,原判決中,反訴請求に関する部分を原審に差し戻すこととする。