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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

監査役との兼任を禁止されている者を監査役に選任する旨の株主総会決議の効力

 平成元年9月19日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
 一 市町村の助役を取締役に選任する旨の株主総会決議は、当該株式会社が地方自治法一四二条の関係私企業に該当する場合であつても、有効である。
二 商法二七六条の規定により監査役との兼任を禁止されている者を監査役に選任する旨の株主総会決議は、有効である。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/368/062368_hanrei.pdf

上告人の上告理由一、二について

地方自治法一四二条は、普通地方公共団体の長は当該普通地方公共団体に対し請負をする者等及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役若しくは監査役等たることができない旨を規定し、右規定は、同法一六六条二項により、市町村の助役に準用されている。

そして、これと同旨の規定は普通地方公共団体の議会の議員及び行政委員会の委員等についても設けられているが(同法九二条の二、一八〇条の五第六項、地方税法四二五条二項等)、その趣旨は、これらの者を当該地方公共団体と一定の経済的利害関係のある私企業から隔離し、その職務執行の公正を確保しようとするにあるものと解される。

右兼業禁止規定に違反した場合の効果としては、右規定に該当するかどうかの認定を他の機関又は選任権者に委ね、該当するものと認定されたときには、当然その職を失うものとされるのが原則であるが(地方自治法一二七条一項、一四三条一項、一八〇条の五第七項。なお、公職選挙法一〇四条)、助役については、その選任権者である当該市町村の長は、助役が右規定に該当すると認めるときは、これを解職しなければならないものとされている(地方自治法一六六条三項)。

このような法律の規定の仕方からすると、法は、兼業禁止規定に違反した場合には、関係私企業における取締役、監査役等の選任行為の効力を失わせることによってではなく、当該議員、長、委員、助役等の地位を失わせることによって、職務執行の公正確保という前記立法目的を達成しようとしていることが明らかである。

そうとすれば、本件についても、神戸市の助役であるDが本件総会決議によって被上告人の取締役に選任され、これに就任したことが仮に前記兼業禁止規定に触れるとしても、本件総会決議の効力には何らの影響を及ぼすものではないというべきである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同一、三について

株式会社の監査役は会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねることができないものとされているが(商法二七六条)、監査役に選任される者が兼任の禁止される従前の地位を辞任することは、株主総会監査役選任決議の効力発生要件ではないと解するのが相当である。

けだし、商法二七六条は監査役の欠格事由を定めたものではないと解すべきであるのみならず、監査役選任の効力は、株主総会における選任決議のみで生ずるものではなく、被選任者が就任を承諾することによって発生するものというべきであって、会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人の地位にある者を監査役に選任する場合においても、その選任の効力が発生する時点までに取締役等の地位を辞任していれば、右兼任禁止規定に触れることにはならないからである。

そして、監査役に選任された者が就任を承諾したときは、監査役との兼任が禁止される従前の地位を辞任したものと解すべきであるが、仮に監査役就任を承諾した者が事実上従前の地位を辞さなかったとしても、そのことは、監査役の任務懈怠による責任(商法二七七条、二八〇条一項、二六六条ノ三第一項)の原因となりうるのは格別、総会の選任決議の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。

そうすると、E弁護士を監査役に選任する旨の本件総会決議は、会社の顧問弁護士が商法二七六条によって兼任の禁止される地位に当たると否とにかかわりなく、有効であるというべきであるから、本件総会決議を有効とした原審の判断は結論において正当であり、原判決に所論の違法はない。