街頭募金詐欺について包括一罪と解することができるとされた事例
平成22年3月17日最高裁判所第二小法廷決定
裁判要旨
1 街頭募金の名の下に通行人から現金をだまし取ろうと企てた者が,約2か月間にわたり,事情を知らない多数の募金活動員を通行人の多い複数の場所に配置し,募金の趣旨を立看板で掲示させるとともに,募金箱を持たせて寄付を勧誘する発言を連呼させ,これに応じた通行人から現金をだまし取ったという本件街頭募金詐欺については,(1)不特定多数の通行人一般に対し一括して同一内容の定型的な働き掛けを行って寄付を募るという態様のものであること,(2)1個の意思,企図に基づき継続して行われた活動であること,(3)被害者が投入する寄付金を個々に区別して受領するものではないことなどの特徴(判文参照)にかんがみると,これを一体のものと評価して包括一罪と解することができる。
2 包括一罪を構成する判示のような街頭募金詐欺の罪となるべき事実については,募金に応じた多数人を被害者とした上,被告人の行った募金の方法,その方法により募金を行った期間,場所及びこれにより得た総金額を摘示することをもってその特定に欠けるところはない。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/002/080002_hanrei.pdf
所論にかんがみ,本件詐欺の罪数関係及びその罪となるべき事実の特定方法につき職権で判断する。
1 本件は,被告人が,難病の子供たちの支援活動を装って,街頭募金の名の下に通行人から金をだまし取ろうと企て,平成16年10月21日ころから同年12月22日ころまでの間,大阪市,堺市,京都市,神戸市,奈良市の各市内及びその周辺部各所の路上において,真実は,募金の名の下に集めた金について経費や人件費等を控除した残金の大半を自己の用途に費消する意思であるのに,これを隠して,虚偽広告等の手段によりアルバイトとして雇用した事情を知らない募金活動員らを上記各場所に配置した上,おおむね午前10時ころから午後9時ころまでの間,募金活動員らに,「幼い命を救おう!」「日本全国で約20万人の子供達が難病と戦っています」「特定非営利団体NPO緊急支援グループ」などと大書した立看板を立てさせた上,黄緑の蛍光色ジャンパーを着用させるとともに1箱ずつ募金箱を持たせ,「難病の子供たちを救うために募金に協力をお願いします。」などと連呼させるなどして,不特定多数の通行人に対し,NPOによる難病の子供たちへの支援を装った募金活動をさせ,寄付金が被告人らの個人的用途に費消されることなく難病の子供たちへの支援金に充てられるものと誤信した多数の通行人に,それぞれ1円から1万円までの現金を寄付させて,多数の通行人から総額約2480万円の現金をだまし取ったという街頭募金詐欺の事案である。
2 そこで検討すると,本件においては,個々の被害者,被害額は特定できないものの,現に募金に応じた者が多数存在し,それらの者との関係で詐欺罪が成立していることは明らかである。
弁護人は,募金に応じた者の動機は様々であり,錯誤に陥っていない者もいる旨主張するが,正当な募金活動であることを前提として実際にこれに応じるきっかけとなった事情をいうにすぎず,被告人の真意を知っていれば募金に応じることはなかったものと推認されるのであり,募金に応じた者が被告人の欺もう行為により錯誤に陥って寄付をしたことに変わりはないというべきである。
この犯行は,偽装の募金活動を主宰する被告人が,約2か月間にわたり,アルバイトとして雇用した事情を知らない多数の募金活動員を関西一円の通行人の多い場所に配置し,募金の趣旨を立看板で掲示させるとともに,募金箱を持たせて寄付を勧誘する発言を連呼させ,これに応じた通行人から現金をだまし取ったというものであって,個々の被害者ごとに区別して個別に欺もう行為を行うものではなく,不特定多数の通行人一般に対し,一括して,適宜の日,場所において,連日のように,同一内容の定型的な働き掛けを行って寄付を募るという態様のものであり,かつ,被告人の1個の意思,企図に基づき継続して行われた活動であったと認められる。
加えて,このような街頭募金においては,これに応じる被害者は,比較的少額の現金を募金箱に投入すると,そのまま名前も告げずに立ち去ってしまうのが通例であり,募金箱に投入された現金は直ちに他の被害者が投入したものと混和して特定性を失うものであって,個々に区別して受領するものではない。
以上のような本件街頭募金詐欺の特徴にかんがみると,これを一体のものと評価して包括一罪と解した原判断は是認できる。
そして,その罪となるべき事実は,募金に応じた多数人を被害者とした上,被告人の行った募金の方法,その方法により募金を行った期間,場所及びこれにより得た総金額を摘示することをもってその特定に欠けるところはないというべきである。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官須藤正彦,同千葉勝美の各補足意見がある。
Summary of the Judgment:
Regarding the street fundraising fraud case where a person plotted to deceive pedestrians for cash under the guise of fundraising and, over approximately two months, placed a large number of unknowing fundraisers in multiple crowded locations, had them display the purpose of the donation on signboards, made them repeatedly call out solicitation phrases with donation boxes, and deceived cash from responsive pedestrians: considering characteristics such as (1) a consistent, standardized approach toward an unspecified general pedestrian population for donations, (2) activities continuously performed based on a single intent and plan, and (3) not distinguishing each individual donation received, it can be evaluated as a unified act and interpreted as a "comprehensive single crime."
For the facts that should constitute a crime of street fundraising fraud as indicated for a comprehensive single crime, there is no lack of specificity by noting the number of victims who donated, the method of fundraising adopted by the defendant, the duration and location of fundraising by this method, and the total amount earned from it.