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他人の物の非占有者が業務上占有者と共謀して横領した場合における非占有者に対する公訴時効の期間

令和4年6月9日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
他人の物の非占有者が業務上占有者と共謀して横領した場合、非占有者に対する公訴時効の期間は、刑法252条1項の横領罪の法定刑である5年以下の懲役について定められた5年(刑訴法250条2項5号)である。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91223

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/223/091223_hanrei.pdf

1 第1審判決の認定した犯罪事実の要旨は、「被告人は、株式会社Bの取締役兼総務経理部長として同社の経理業務を統括していたC(以下「C」という。)と共謀の上、平成24年7月5日、同社名義の銀行口座の預金をCにおいて同社のために業務上預かり保管中、東京都内の同社事務所において、自己の用途に費消する目的で、Cにおいて、情を知らない同社職員に指示して、上記口座から、Cらが管理する銀行口座に、現金2415万2933円を振込入金させ、もってこれを横領した。」というものである。

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3 所論は、原判決の判断は、名古屋高等裁判所昭和45年7月29日判決(以下「名古屋高裁判決」という。)と相反すると主張する。名古屋高裁判決は、他人の物を占有していない者(「非占有者」)が、これを業務上占有する者(「業務上占有者」)と共謀して横領したという事案において、本擬律を前提に、非占有者に対する公訴時効は、横領罪の公訴時効によるべきである旨判示したものであり、原判決の判断は、名古屋高裁判決と相反している(なお、所論は、原判決の判断は、最高裁昭和32年11月19日第三小法廷判決とも相反する旨主張するが、同判例は、所論のような趣旨まで判示したものではないから、前提を欠く。)。

4 そこで検討すると、公訴時効制度の趣旨は、処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにあり、刑訴法250条が刑の軽重に応じて公訴時効の期間を定めているのもそれを示すものと解される。そして、処罰の必要性(行為の可罰的評価)は、犯人に対して科される刑に反映されるものということができる。本件において、業務上占有者としての身分のない非占有者である被告人には刑法65条2項により同法252条1項の横領罪の刑を科することとなるとした第1審判決及び原判決の判断は正当であるところ、公訴時効制度の趣旨等に照らすと、被告人に対する公訴時効の期間は、同罪の法定刑である5年以下の懲役について定められた5年(刑訴法250条2項5号)であると解するのが相当である。これによれば、本件の公訴提起時に、被告人に対する公訴時効は完成していたことになる。

5 以上によれば、原判決は、法令の解釈適用を誤り、名古屋高裁判決と相反する判断をしたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。