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私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出された場合と文書の真正の推定。

昭和39年5月12日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53145

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/145/053145_hanrei.pdf

民訴三二六条に「本人又ハ其ノ代理人ノ署名又ハ捺印アルトキ」というのは、該署名または捺印が、本人またはその代理人の意思に基づいて、真正に成立したときの謂であるが、文書中の印影が本人または代理人の印章によつて顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当であり、右推定がなされる結果、当該文書は、民訴三二六条にいう「本人又ハ其ノ代理人ノ(中略)捺印アルトキ」の要件を充たし、その全体が真正に成立したものと推定されることとなるのである。原判決が、甲第一号証の一(保証委託契約書)、甲第三号証の一(委任状)、同二(調書)、甲第四号証の一(手形割引約定書)、同二(約束手形)について、右各証中上告人名下の印影が同人の印をもつて顕出されたことは当事者間に争いがないので、右各証は民訴三二六条により真正なものと推定されると判示したのは、右各証中上告人名下の印影が同人の印章によつて顕出された以上、該印影は上告人の意思に基づいて、真正に成立したものと推定することができ、したがつて、民訴三二六条により文書全体が真正に成立したものと推定されるとの趣旨に出でたものと解せられるのであり、右判断は、前説示に徴し、正当として是認できる。右判断には、所論意思表示に関する法原則または法令の違背もしくは民訴三二六条の解釈適用の誤りもなければ、理由そごの違法も認められない。

しかして、原審の証拠関係に照らすと、証人D、控訴本人の各供述は上叙推定を妨げる反証たりえず、訴外Dが上告人の印章を盗用した事実も認められないとした原審の事実上の判断もまた首肯できなくはない。

所論は、畢寛、原審の認定に添わない事実に立脚し、独自の見解に基づいて、前示甲号各証の成立の真否に関する原審の判断を攻撃するか、または、原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するものであつて、採用できない。