共犯関係が解消していないとされた事例
平成元年6月26日最高裁判所第一小法廷決定
裁判要旨
甲が、乙と共謀のうえ、こもごも丙に暴行を加えたのち、現場から立ち去るに際し、乙において丙に対しなお暴行を加えるおそれが消滅していなかつたのに、格別これを防止する措置を講じなかつたときは、甲乙間の当初の共犯関係は、右の立ち去つた時点で解消したものということはできない。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50381
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/381/050381_hanrei.pdf
所論にかんがみ、職権により判断する。
一 傷害致死の点について、原判決(原判決の是認する一審判決の一部を含む。)が認定した事実の要旨は次のとおりである。
(1) 被告人は、一審相被告人のAの舎弟分であるが、両名は、昭和六一年一月二三日深夜スナツクで一緒に飲んでいた本件被害者のBの酒癖が悪く、再三たしなめたのに、逆に反抗的な態度を示したことに憤慨し、同人に謝らせるべく、車でA方に連行した。
(2) 被告人は、Aとともに、一階八畳間において、Bの態度などを難詰し、謝ることを強く促したが、同人が頑としてこれに応じないで反抗的な態度をとり続けたことに激昂し、その身体に対して暴行を加える意思をAと相通じた上、翌二四日午前三時三〇分ころから約一時間ないし一時間半にわたり、竹刀や木刀でこもごも同人の顔面、背部等を多数回殴打するなどの暴行を加えた。
(3) 被告人は、同日午前五時過ぎころ、A方を立ち去つたが、その際「おれ帰る」といつただけで、自分としてはBに対しこれ以上制裁を加えることを止めるという趣旨のことを告げず、Aに対しても、以後はBに暴行を加えることを止めるよう求めたり、あるいは同人を寝かせてやつてほしいとか、病院に連れていつてほしいなどと頼んだりせずに、現場をそのままにして立ち去つた。
(4) その後ほどなくして、Aは、Bの言動に再び激昂して、「まだシメ足りないか」と怒鳴つて右八畳間においてその顔を木刀で突くなどの暴行を加えた。
(5)Bは、そのころから同日午後一時ころまでの間に、A方において甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死したが、右の死の結果が被告人が帰る前に被告人とAがこもごも加えた暴行にようて生じたものか、その後のAによる前記暴行により生じたものかは断定できない。
二 右事実関係に照らすと、被告人が帰つた時点では、Aにおいてなお制裁を加えるおそれが消滅していなかつたのに、被告人において格別これを防止する措置を講ずることなく、成り行きに任せて現場を去つたに過ぎないのであるから、Aとの間の当初の共犯関係が右の時点で解消したということはできず、その後のAの暴行も右の共謀に基づくものと認めるのが相当である。そうすると、原判決がこれと同旨の判断に立ち、かりにBの死の結果が被告人が帰つた後にAが加えた暴行によつて生じていたとしても、被告人は傷害致死の責を負うとしたのは、正当である。