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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 会社法423条1項に基づく損害賠償請求訴訟において原告の設置した取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が原告の訴訟代理人として行う訴訟行為を弁護士法25条2号及び4号の類推適用により排除することはできないとされた事例

令和4年6月27日最高裁判所第一小法廷決定

裁判要旨    
株式会社である原告の設置した取締役責任調査委員会により、原告の取締役であった被告に対する事情聴取が行われた後、原告が、被告に対し、上記委員会の委員であった弁護士を訴訟代理人として、会社法423条1項に基づく損害賠償責任を追及する訴訟を提起した場合において、上記委員会が被告の上記責任の有無等を調査、検討するために設置されたものであるなど判示の事実関係の下では、上記訴訟において上記弁護士が原告の訴訟代理人として行う訴訟行為について、弁護士法25条2号及び4号の類推適用があるとして、これを排除することはできない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91275

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/275/091275_hanrei.pdf

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弁護士法

(職務を行い得ない事件)
第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
四 公務員として職務上取り扱つた事件

会社法

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

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1 本件は、株式会社である抗告人を原告とし、その取締役であった相手方らを被告とする訴訟(「本件訴訟」)において、相手方らが、太田洋弁護士及び木目田裕弁護士(併せて「太田弁護士ら」)が抗告人の訴訟代理人として訴訟行為をすることは弁護士法25条2号、4号等の各趣旨に反すると主張して、太田弁護士らの各訴訟行為の排除を求める事案である。
2 記録によれば、本件の経緯等は次のとおりである。
令和元年9月、抗告人の取締役等が福井県における原子力発電事業に関して地元関係者から多額の金品を受領していた問題(「金品受領問題」)についての報道がされた。
抗告人は、令和2年3月、金品受領問題等に関し、日本弁護士連合会のガイドラインに準拠して設置した第三者委員会から再発防止策の提言等を受けた後、相手方らが会社法423条1項により抗告人に対する損害賠償責任を負うか否か等について調査、検討を行うため、太田弁護士らを含む4名の弁護士に委員を委嘱して、取締役責任調査委員会(「本件責任調査委員会」)を設置した。
抗告人は、本件責任調査委員会について、独立性を確保した利害関係のない立場にある社外の弁護士から成る委員会である旨の公表(「本件公表」)をした。

本件責任調査委員会は、相手方らに対し、文書により、金品受領問題等に関する事情聴取に協力するよう要請した。上記文書には、その事情聴取の結果は、抗告人の相手方らに対する責任追及訴訟において証拠として用いられる可能性がある旨の記載(「本件記載」)がされていた。
本件責任調査委員会は、金品受領問題等に関し、相手方らに対する事情聴取を行った上で、令和2年6月、抗告人に対し、相手方らに損害賠償責任が認められるなどと記載した調査報告書を提出した。
抗告人は、令和2年6月、太田弁護士らを含む複数の弁護士を訴訟代理人として、本件訴訟を大阪地方裁判所に提起した。本件訴訟は、抗告人が、金品受領問題等に関し、相手方らが取締役としての任務を怠ったことにより損害が生じたと主張して、会社法423条1項に基づき、相手方らに対し、損害賠償を求めるものである。
相手方らは、令和2年7月、大阪地方裁判所に対し、本件訴訟において太田弁護士らが抗告人の訴訟代理人として訴訟行為をすることは、弁護士法25条2号、4号等の各趣旨に反すると主張して、太田弁護士らの各訴訟行為の排除を求める申立て(「本件申立て」)をした。 

 

本件責任調査委員会は、金品受領問題等に関し、抗告人が相手方らの会社法423条1項に基づく損害賠償責任の有無等を調査、検討するために設置したものであり、その委員は、抗告人から委嘱を受けて、上記の調査等のために職務を行うものである。相手方らにおいても、本件責任調査委員会の名称及び設置目的並びに本件記載に照らし、本件責任調査委員会が、抗告人のために上記の調査等を行っており、事情聴取の結果が、抗告人の相手方らに対する損害賠償請求訴訟において証拠として用いられる可能性があることを当然認識していたというべきである。そうすると、相手方らが本件責任調査委員会の事情聴取に応じてした回答が、その委員である太田弁護士らに対して金品受領問題等について法律的な解決を求めるためにされたに等しいということはできない。

また、本件責任調査委員会の設置目的やその委員の職務の内容等に照らし、太田弁護士らが裁判官と変わらない立場にあったということもできない。これらのことは、抗告人が本件公表をしていたからといって、変わるものではない。

そもそも、弁護士に委任をして訴訟を追行する当事者の利益や訴訟手続の安定等を考慮すると、弁護士法25条に違反する弁護士の訴訟行為を排除する判断において、同条の規定についてみだりに拡張又は類推して解釈すべきではない。

以上によれば、本件訴訟において太田弁護士らが抗告人の訴訟代理人として行う各訴訟行為について、弁護士法25条2号及び4号の類推適用があるとして、これを排除することはできないと解するのが相当である。 

5 以上と異なる原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。上記の趣旨をいう論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件訴訟において太田弁護士らが抗告人の訴訟代理人として行う各訴訟行為について、相手方らが指摘するその余の条項の類推適用があるとして、これを排除することができないことは明らかであり、本件申立てを却下した原々決定は正当であるから、原々決定に対する抗告を棄却することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。