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株式会社を設立する新設分割と詐害行為取消権

平成24年10月12日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82628

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/628/082628_hanrei.pdf

 1 本件は,Aに対する債権の管理及び回収を委託された被上告人が,Aが第1審判決別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)を新設分割により上告人に承継させたことが詐害行為に当たるとして,上告人に対し,詐害行為取消権に基づき,その取消し及び本件不動産についてされた会社分割を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

被上告人は,債権管理回収業に関する特別措置法2条3項に規定する債権回収会社である。

Bは,平成12年12月13日,Cに対し,5億6000万円を貸し付け(以下,同貸付けに係る債権を「本件貸金債権」という。),Dは,同日,Bに対し,本件貸金債権に係る債務を連帯保証した(以下,同連帯保証に係る保証債務を「本件保証債務」という。)。
 Bは,平成14年5月10日,Eに対し,本件貸金債権を譲渡した。Eは,平成17年9月16日,Fに対し,本件貸金債権を譲渡し,同社は,同日,被上告人に対し,本件貸金債権の管理及び回収を委託した。同日時点における本件貸金債権の元本の残高は約4億5500万円であり,その後,これが弁済されたことはうかがわれない。

Aは,平成16年8月6日,Dを吸収合併し,本件保証債務を承継した。

Aは,平成19年9月1日,株式会社である上告人を新たに設立すること,Aは上告人に本件不動産を含む第1審判決別紙承継権利義務明細表①記載の権利義務を承継すること,上告人がAに上告人の発行する株式の全部を割り当てることなどを内容とする新設分割計画を作成し(以下,同新設分割計画に基づく新設分割を「本件新設分割」という。),同年10月1日,上告人の設立の登記がされ,本件新設分割の効力が生じた。
 本件新設分割により,上告人はAから一部の債務を承継し,Aは上記承継に係る債務について重畳的債務引受けをしたが,本件保証債務は上告人に承継されなかった。
 Aは,平成19年10月12日,本件不動産について,同月1日会社分割を原因として,上告人に対する所有権移転登記手続をした。

Aが本件新設分割をした当時,本件不動産には約3300万円の担保余力があった。しかし,Aは,その当時,本件不動産以外には債務の引当てとなるような特段の資産を有しておらず,本件新設分割及びその直後に行われたGを新たに設立する新設分割により,上告人及びGの株式以外には全く資産を保有しない状態となった。

 3 原審は,新設分割は財産権を目的とする法律行為であり,会社法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者については詐害行為取消権の行使が否定されるべき理由はなく,その効果も訴訟当事者間において相対的に取り消されるにとどまり会社の設立自体の効力を対世的に失わせるものではないとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象になり得ると判断した上で,上記2の事実関係の下において,本件新設分割は詐害行為に当たるなどとし,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 4 所論は,会社の組織に関する行為である新設分割は民法424条2項にいう財産権を目的としない法律行為であり,また,新設分割を詐害行為取消権行使の対象とすると,新設分割の効力を否定するための制度として新設分割無効の訴えのみを認めた会社法の趣旨に反するほか,同法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者に同手続の対象とされている債権者以上の保護を与えることになるなどとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象にならないというのである。

 5 新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有するものであるということができるが,他方で,新たな会社の設立をその内容に含む会社の組織に関する行為でもある。財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上,会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが,このような新設分割の性質からすれば,当然に新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することもできず,新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては,新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するというべきである。
 そこで検討すると,まず,会社法その他の法令において,新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。また,会社法上,新設分割をする株式会社(「新設分割株式会社」)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条),一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず,新設分割により新たに設立する株式会社(「新設分割設立株式会社」)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については,詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合が存するところである。

ところで,会社法上,新設分割の無効を主張する方法として,法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴えが規定されているが(同法828条1項10号),詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,上記のように債権者保護の必要性がある場合において,会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって,新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。

そうすると,株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。

 6 以上によれば,本件新設分割が詐害行為取消権行使の対象になるものとして,被上告人の請求を認容した原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦の補足意見がある。