最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

音楽教室の運営者と演奏技術等の教授に関する契約を締結した者(生徒)のレッスンにおける演奏に関し上記運営者が音楽著作物の利用主体であるということはできないとされた事例

令和4年10月24日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
音楽教室の運営者と演奏技術等の教授に関する契約を締結した者(生徒)が、上記契約に基づき、上記運営者に対して受講料を支払い、演奏技術等の教授のためのレッスンにおいて教師の指示・指導の下で著作権等管理事業者の管理に係る音楽著作物を含む課題曲を演奏する場合に、次の(1)~(3)など判示の事情の下では、上記レッスンにおける生徒の演奏に関し、上記運営者が上記音楽著作物の利用主体であるということはできない。

(1) 生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、上記課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。
(2) 生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。
(3) 教師による課題曲の選定や生徒の演奏についての指示・指導は、生徒が上記(1)の目的を達成することができるように助力するものにすぎない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91473

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/473/091473_hanrei.pdf

1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
上告人は、著作権等管理事業法2条3項に規定する著作権等管理事業者であり、著作権者から著作権の信託を受けるなどして音楽著作物の著作権を管理している(以下、上告人の管理に係る音楽著作物を「本件管理著作物」という。)。
被上告人らは、音楽教室を運営する者であり、被上告人らと音楽及び演奏(歌唱を含む。以下同じ。)技術の教授に関する契約を締結した者(「生徒」)に対し、自ら又はその従業員等を教師として、上記演奏技術等の教授のためのレッスン(「レッスン」)を行っている。
生徒は、上記契約に基づき、被上告人らに対して受講料を支払い、レッスンにおいて、教師の指示・指導の下で、本件管理著作物を含む課題曲(「課題曲」)を演奏している。

2 本件は、被上告人らが、上告人を被告として、上告人の被上告人らに対する本件管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等が存在しないことの確認を求める事案である。本件においては、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるか否かが争われている。

3 所論は、生徒は被上告人らとの上記契約に基づき教師の強い管理支配の下で演奏しており、被上告人らは営利目的で運営する音楽教室において課題曲が生徒により演奏されることによって経済的利益を得ているのに、被上告人らを生徒が演奏する本件管理著作物の利用主体であるとはいえないとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。

4 演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。なお、被上告人らは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。

5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。