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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

再生債務者が支払の停止の前に再生債権者から購入した投資信託受益権に係る再生債権者の再生債務者に対する解約金の支払債務の負担が,民事再生法93条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たらず,上記支払債務に係る債権を受働債権とする相殺が許されないとされた事例

平成26年6月5日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
再生債務者Xが,その支払の停止の前に,投資信託委託会社と信託会社との信託契約に基づき設定された投資信託の受益権をその募集販売委託を受けた再生債権者Yから購入し,上記信託契約等に基づき,上記受益権に係る信託契約の解約実行請求がされたときにはYが上記信託会社から解約金の交付を受けることを条件としてXに対してその支払債務を負担することとされている場合において,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,Yがした債権者代位権に基づく解約実行請求により,Yが,Xの支払の停止を知った後に上記解約金の交付を受け,これにより上記支払債務を負担したことは,民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるとはいえず,Yが有する再生債権を自働債権とし上記支払債務に係る債権を受働債権とする相殺は許されない。
(1) 上記解約実行請求は,YがXの支払の停止を知った後にされた。
(2) Xは,Yの振替口座簿に開設された口座で振替投資信託受益権として管理されていた上記受益権につき,原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができた。
(3) Yが上記相殺をするためには,他の債権者と同様に,債権者代位権に基づき, Xに代位して上記解約実行請求を行うほかなかったことがうかがわれる。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=84246

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/246/084246_hanrei.pdf

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 1 本件訴訟のうち上告人の第2次的請求は,再生債務者である上告人が,支払の停止の前に,Aから購入し,Aにその管理を委託していた投資信託受益権(「本件受益権」)につき,支払の停止の後,再生手続開始の申立て前に本件受益権に係る信託契約の一部解約がされたとして,原判決言渡し後にAを吸収合併しその権利義務を承継した被上告人Y(旧商号は,B。以下,同合併前のAと併せて「被上告銀行」という。)に対し,上記の管理委託契約に基づき,その解約金の支払を求めるものである。再生債権者であった被上告銀行は,上告人に対する上記解約金の支払債務の負担が民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるので相殺が許されるとして,上記解約金の支払請求権を受働債権とする相殺を主張している。 

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 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり,本件債務の負担は,民事再生法93条1項3号本文にいう「支払の停止があった後に再生債務者に対して債務を負担した場合」に当たるものの,同条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるから,本件相殺は許されるとして,上告人の第2次的請求を棄却した。
 本件債務は,本件管理委託契約に基づき,本件受益権に係る信託契約の一部解約によって解約金が被上告銀行に交付されることを条件として発生したものであって,被上告銀行は,上告人の支払の停止の後に上記条件が成就したことにより本件債務を負担するに至ったものである。しかし,本件受益権は,上告人の支払の停止の前に締結された本件管理委託契約に従って被上告銀行によって管理されており,上告人が本件受益権につき解約実行請求をしても,被上告銀行を通じてしか解約金の支払を受けることができない仕組みとなっていたのであるから,本件債務の負担は,被上告銀行が上告人の支払の停止を知った時より前に生じた原因に基づく場合に当たるといえる。

しかしながら,原審の上記判断のうち本件債務の負担が民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるとした部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

民事再生法は,再生債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨が没却されることのないよう,93条1項3号本文において再生債権者において支払の停止があったことを知って再生債務者に対して債務を負担した場合にこれを受働債権とする相殺を禁止する一方,同条2項2号において上記債務の負担が「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合には,相殺の担保的機能に対する再生債権者の期待は合理的なものであって,これを保護することとしても,上記再生手続の趣旨に反するものではないことから,相殺を禁止しないこととしているものと解される。

前記事実関係によれば,本件債務は,上告人の支払の停止の前に,上告人が被上告銀行から本件受益権を購入し,本件管理委託契約に基づきその管理を被上告銀行に委託したことにより,被上告銀行が解約金の交付を受けることを条件として上告人に対して負担した債務であると解されるが(最高裁平成18年12月14日第一小法廷判決),少なくとも解約実行請求がされるまでは,上告人が有していたのは投資信託委託会社に対する本件受益権であって,これに対しては全ての再生債権者が等しく上告人の責任財産としての期待を有しているといえる。上告人は,本件受益権につき解約実行請求がされたことにより,被上告銀行に対する本件解約金の支払請求権を取得したものではあるが,同請求権は本件受益権と実質的には同等の価値を有するものとみることができる。その上,上記解約実行請求は被上告銀行が上告人の支払の停止を知った後にされたものであるから,被上告銀行において同請求権を受働債権とする相殺に対する期待があったとしても,それが合理的なものであるとはいい難い。

また,上告人は,本件管理委託契約に基づき被上告銀行が本件受益権を管理している間も,本件受益権につき,原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができたのである。このような振替がされた場合には,被上告銀行が上告人に対して解約金の支払債務を負担することは生じ得ないのであるから,被上告銀行が上告人に対して本件債務を負担することが確実であったということもできない。さらに,前記事実関係によれば,本件においては,被上告銀行が上告人に対して負担することとなる本件受益権に係る解約金の支払債務を受働債権とする相殺をするためには,他の債権者と同様に,債権者代位権に基づき,上告人に代位して本件受益権につき解約実行請求を行うほかなかったことがうかがわれる。

そうすると,被上告銀行が本件債務をもってする相殺の担保的機能に対して合理的な期待を有していたとはいえず,この相殺を許すことは再生債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨に反するものというべきである。したがって,本件債務の負担は,民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるとはいえず,本件相殺は許されないと解するのが相当である。

以上によれば,本件相殺が許されるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中,上告人の第2次的請求に関する部分は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,上告人の第2次的請求には理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,上記部分につき被上告銀行の控訴を棄却すべきである。