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公文書一部公開拒否処分取消請求事件

平成11年11月19日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
  一 いわゆる池子弾薬庫跡地内に所在する逗子市所有地の管理又は国への移転登記に関し必要な措置を講ずべきこと等を求める住民監査請求につき逗子市監査委員が横浜防衛施設局職員から事情聴取をした内容を記録した文書は、全国の未登記土地に関する国と所有名義人との間における民事上の紛争の処理の仕方、手法についての供述や、国の民事訴訟解決の手の内が示されているのであれば、逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例第六号)において公文書の非公開事由を定めた五条(2)ウにいう「争訟の方針に関する情報」に当たらないとはいえない。

 二 公文書の非公開事由を定めた逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例第六号)五条(2)ウに該当することを理由として付記してされた公文書の非公開決定の取消訴訟において、実施機関が、右決定が適法であることの根拠として、当該公文書が同条(2)アに該当すると主張することは、許される。

 三 いわゆる池子弾薬庫跡地内に所在する逗子市所有地の管理又は国への移転登記に関し必要な措置を講ずべきこと等を求める住民監査請求につき逗子市監査委員が右登記事務に関係した同市職員、横浜防衛施設局職員等の関係行政機関の職員から事情聴取をした内容を記載した文書は、同監査委員限りで参考にすることにとどめ公開しないことを前提として提供された機密にわたる情報が含まれているのであれば、逗子市情報公開条例(平成二年逗子市条例第六号)において公文書の非公開事由を定めた五条(2)アにより非公開とすることができる文書に当たらないとはいえない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52601

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/601/052601_hanrei.pdf

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三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1 本件条例五条(2)ウが「争訟の方針に関する情報」を非公開とすることができるものとしている趣旨は、逗子市、国若しくは他の地方公共団体又はその機関が一方当事者として争訟に対処するための内部的な方針に関する情報が公開されると、それが正規の交渉等の場を経ないで相手方当事者に伝わるなどして、紛争の公正、円滑な解決を妨げるおそれがあるからであると解される。そうすると、右規定にいう「争訟の方針に関する情報」は、所論のように争訟の帰すうに影響を与える情報のすべてを指すものと解するのは相当でないが、現に係属し又は係属が具体的に予想される事案に即した具体的方針に限定されると解すべきではなく、右の団体又はその機関が行うことのあるべき争訟に対処するための一般的方針をも含むものと解するのが相当である。したがって、右の一般的方針が含まれている場合には、本件各文書は争訟の方針に関する情報に当たるというべきである。
 【要旨第一】上告人の主張によれば、横浜防衛施設局施設管理課職員からの事情聴取書には、全国の未登記土地に関する国と所有名義人との間における民事上の紛争の処理の仕方、手法についての供述や、国の民事訴訟解決の手の内も示されているというのである。そうであるなら、これらの情報は国の争訟の方針に関する情報に当たり、これが公開されることになれば、現在及び将来の国のかかわる未登記土地等に関する争訟の遂行に著しい支障を生ずることになる可能性があるものというべきである。したがって、前記二1の解釈に基づいて右主張に係る情報が「争訟の方針に関する情報」に当たらないとした原審の判断には、本件条例五条(2)ウの解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、右違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。

2 【要旨第二】本件条例九条四項前段が、前記のように非公開決定の通知に併せてその理由を通知すべきものとしているのは、本件条例二条が、逗子市の保有する情報は公開することを原則とし、非公開とすることができる情報は必要最小限にとどめられること、市民にとって分かりやすく利用しやすい情報公開制度となるよう努めること、情報の公開が拒否されたときは公正かつ迅速な救済が保障されることなどを解釈、運用の基本原則とする旨規定していること等にかんがみ、非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してそのし意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきである。そして、そのような目的は非公開の理由を具体的に記載して通知させること(実際には、非公開決定の通知書にその理由を付記する形で行われる。)自体をもってひとまず実現されるところ、本件条例の規定をみても、右の理由通知の定めが、右の趣旨を超えて、一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である。したがって、上告人が本件処分の通知書に付記しなかった非公開事由を本件訴訟において主張することは許されず、本件各文書が本件条例五条(2)アに該当するとの上告人の主張はそれ自体失当であるとした原審の判断は、本件条例の解釈適用を誤るものであるといわざるを得ない。

3 そこで、本件においては、進んで、本件各文書が本件条例五条(2)アに該当する情報であるか否かを検討することとする。
 本件各文書は、逗子市監査委員が五九年監査請求又は六〇年監査請求につき監査を行い、これらに理由があるか否かなどを決定するための資料とする目的で収集した情報であるから、逗子市の機関内部における意思決定過程における情報に当たるものと解される。したがって、これが本件条例五条(2)アの規定に該当するか否かは、これを公開することにより公正又は適正な意思決定を著しく妨げるか否かにより決定されることになる。
 右規定にいう「意思決定を妨げる」とは、当該意思決定それ自体を妨げることのほか、将来における同種の意思決定の障害となることも含まれるものと解するのが相当である。そして、当該情報を公開することにより、今後行われることのあるべき同種の意思決定のための資料の収集に支障を生ずることも、これに含まれると解される。
 【要旨第三】右のような観点から検討すると、上告人の主張に照らせば、逗子市監査委員が監査を行うための資料として関係行政機関の職員から事情を聴取した結果を記載した文書の中には、地方自治法二四二条が監査記録を公開することを予定していないため、同監査委員限りで参考にするにとどめ公開しないことを前提として提供された機密にわたる情報が含まれている可能性があり、仮にそのような情報が含まれているとするなら、これを無条件に公開することは、関係行政機関との間の信頼関係を損ない、将来の同様の事情聴取に重大な支障を及ぼし、公正又は適正な監査を行うことができなくなるおそれがあるものというべきである。したがって、そのような情報は、本件条例五条(2)アに該当するとして、これを非公開とすることが許されるものというべきである。
 ところが、原審は、本件各文書が当該監査の意思決定を妨げることがなく、監査委員の調査の結果を公開することが一般的に公正適正な監査の意思決定を妨げることになるとも認められないとの理由をもって、本件各文書に将来の監査における意思決定を著しく妨げるおそれのある情報が含まれているか否かを具体的に検討することなく、これらが右規定に該当しないと断じたものであるから、右判断には、本件条例の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
 以上によれば、前記2のとおり理由付記に関する本件条例の解釈適用を誤り、また、右のとおり本件条例五条(2)アの解釈適用を誤った結果、本件各文書には右条項に規定する非公開事由があるという上告人の主張を排斥した原審の判断には、違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというべきである。

4 論旨は、以上と同旨をいう限りにおいて理由があり、原判決は全部破棄を免れない。そして、本件については、以上に述べたところに従って非公開事由の有無について具体的に審理判断を尽くすため、原審に差し戻すのが相当である。