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民法七四二条一号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」の意義

昭和44年10月31日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
民法七四二条一号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないときは、婚姻は効力を生じない。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51893

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/893/051893_hanrei.pdf

 所論は、民法七四二条一号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、法律上の夫婦という身分関係を当事者間に設定しようとする意思がない場合と解すべきである旨主張する。

しかし、右にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものと解すべきであり、したがつてたとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合致があり、ひいて当事者間に、一応、所論法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあつたと認めうる場合であつても、それが、単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないものであつて、前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかつた場合には、婚姻はその効力を生じないものと解すべきである。

これを本件についてみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の適法に認定判示するところによれば、本件婚姻の届出に当たり、被上告人と上告人との間には、Dに右両名間の嫡出子としての地位を得させるための便法として婚姻の届出についての意思の合致はあつたが、被上告人には、上告人との間に真に前述のような夫婦関係の設定を欲する効果意思はなかつたというのであるから、右婚姻はその効力を生じないとした原審の判断は正当である。所論引用の判例最高裁昭和三八年一一月二八日第一小法廷判決)は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。