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借地借家法20条1項後段の付随的裁判として敷金を差し入れるべき旨を定めその交付を命ずることの可否

平成13年11月21日最高裁判所第二小法廷決定

裁判要旨    
裁判所は,借地借家法20条に基づく許可の裁判をする場合において,同条1項後段の付随的裁判として,相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め,その交付を命ずることができる。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/347/052347_hanrei.pdf

 1 本件は,賃貸借の目的である土地の上の建物を競売により取得した相手方が,借地借家法(以下「法」という。)20条に基づき,裁判所に対し,賃借権の譲渡について借地権設定者である抗告人の承諾に代わる許可を申し立てた事件である。

記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。

 (1) 抗告人は,昭和57年10月14日,その所有する本件土地を,堅固な建物の所有を目的とし,期間を昭和101年(平成38年)12月14日までと定めて,D株式会社(以下「D」という。)に賃貸した。その際,Dは,敷金として1000万円を,上記賃貸借契約によって生ずるすべての債務を担保するため,賃貸借契約が終了し本件土地を明け渡した時に返還を受けるとの約定の下に,抗告人に交付した。

 (2) Dは,本件土地上に本件建物を所有していたが,本件建物について担保権の実行としての競売が実施され,平成11年11月18日,相手方が競売代金を納付して,その所有権とともに本件土地の賃借権(以下「本件賃借権」という。)を取得した。なお,上記競売事件の物件明細書には,本件賃借権について,期間昭和57年10月14日から44年間,賃料月額19万1150円,敷金1000万円と記載されていた。

 (3) 相手方は,抗告人に対して本件賃借権の譲受けの承諾を求めたが,抗告人が承諾をしないことから,本件申立てをした。
 審問期日において,抗告人は,申立ての棄却を求め,許可を与える場合には,法20条1項後段の付随的裁判として,地代を増額するとともに,相当額の財産上の給付及びDが交付していたものと同額の敷金の交付を命ずべきである旨主張した。
なお,国は,平成6年5月,国税徴収法に基づいて,Dの抗告人に対する将来生ずべき敷金返還請求権を差し押さえた。

 (4) 原々審の求めに応じて鑑定委員会が示した意見は,申立ては認容するのが妥当であり,付随的裁判として,相手方から抗告人に,借地権価格の10%に相当する額である491万円を承諾料として給付させ,かつ,敷金として1000万円を交付させ,地代は現状に据え置くのが相当というものであった。

 2 原審は,賃借権の譲受けを許可するとともに,付随的裁判につき,借地権価格の10%に相当する額の支払を命ずることが賃借権の譲受けを許可する場合の財産上の給付の一般的な基準であるとの理由から,相手方に491万円の支払を命ずべきものとしたが,地代はこれを据え置くのが相当であり,敷金については,法20条1項後段に定める付随的裁判としてその交付を命ずることはできないと判示した。

 3 しかしながら,原審の付随的裁判に関する上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

土地の賃貸借における敷金は,賃料債務,賃貸借終了後土地明渡義務履行までに生ずる賃料額相当の損害金債務,その他賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担することとなる一切の債務を担保することを目的とするものである。しかし,土地の賃借人が賃貸人に敷金を交付していた場合に,賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に移転しても,敷金に関する旧賃借人の権利義務関係は,特段の事情のない限り,新賃借人に承継されるものではない(最高裁昭和53年12月22日第二小法廷判決)。

したがって,この場合に,賃借権の目的である土地の上の建物を競売によって取得した第三者が土地の賃借権を取得すると,特段の事情のない限り,賃貸人は敷金に よる担保を失うことになる。

そこで,裁判所は,上記第三者に対して法20条に基づく賃借権の譲受けの承諾に代わる許可の裁判をする場合には,賃貸人が上記の担保を失うことになることをも考慮して,法20条1項後段の付随的裁判の内容を検討する必要がある。その場合,付随的裁判が当事者間の利益の衡平を図るものであることや,紛争の防止という賃借権の譲渡の許可の制度の目的からすると,

【要旨】裁判所は,旧賃借人が交付していた敷金の額,第三者の経済的信用,敷金に関する地域的な相場等の一切の事情を考慮した上で,法20条1項後段の付随的裁判の1つとして,当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め,第三者に対してその交付を命ずることができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに,原審は,付随的裁判をするに当たり,法20条1項後段に定める付随的裁判として第三者に敷金の交付を命ずることは許されないとの誤った解釈の下に,付随的裁判の内容を判断したものであって,この判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。この趣旨をいう論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところに従い,改めて付随的裁判の内容について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。