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建物賃貸借契約継続中に賃借人が賃貸人に対し敷金返還請求権の存在確認を求める訴えにつき確認の利益があるとされた事例

 平成11年1月21日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
建物賃貸借契約継続中に賃借人が賃貸人に対し敷金返還請求権の存在確認を求める訴えは、その内容が右賃貸借契約終了後建物の明渡しがされた時においてそれまでに生じた敷金の被担保債権を控除しなお残額があることを条件とする権利の確認を求めるものであり、賃貸人が賃借人の敷金交付の事実を争って敷金返還義務を負わないと主張しているときは、確認の利益がある。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/568/052568_hanrei.pdf

 本件訴えは、建物賃貸借契約の継続中に、賃借人である被上告人が、前賃貸人から賃貸人の地位を承継した上告人に対し、保証金の名称で前賃貸人に交付したとする敷金の返還請求権の存在確認を求めるものであり、上告人は、前賃貸人に対する右敷金交付の事実を否認し、敷金の返還義務を負わないと主張する。

第一審は、本件訴えは確認の利益を欠くものであるとして、これを却下したのに対し、原審は、確認の利益を認め、第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻した。

建物賃貸借における敷金返還請求権は、賃貸借終了後、建物明渡しがされた時において、それまでに生じた敷金の被担保債権一切を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき発生するものであって(最高裁昭和四八年二月二日第二小法廷判決)、賃貸借契約終了前においても、このような条件付きの権利として存在するものということができるところ、本件の確認の対象は、このような条件付きの権利であると解されるから、現在の権利又は法律関係であるということができ、確認の対象としての適格に欠けるところはないというべきである。

また、本件では、上告人は、被上告人の主張する敷金交付の事実を争って、敷金の返還義務を負わないと主張しているのであるから、被上告人・上告人間で右のような条件付きの権利の存否を確定すれば、被上告人の法律上の地位に現に生じている不安ないし危険は除去されるといえるのであって、本件訴えには即時確定の利益があるということができる。

したがって、本件訴えは、確認の利益があって、適法であり、これと同旨の原審の判断は是認することができる。右判断は、所論引用の各判例に抵触するものではない。