最高裁判例の勉強部屋:毎日数個の最高裁判例を読む

上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

多数の周辺住民が提起した林地開発行為許可処分取消訴訟における控訴提起の手数料額の算定

平成12年10月13日最高裁判所第二小法廷決定

裁判要旨    
森林法一〇条の二に基づく林地開発行為の許可処分につき、許可区域周辺に居住する多数の原告が、右開発行為により、同区域周辺の水質の悪化、水量の変化、大気汚染、その他の環境悪化を生じ、原告らの水利権、人格権、不動産所有権等が害されるおそれがあるところ、右処分には同条二項所定の不許可事由があるのにされた違法があるなどと主張して、右処分の取消しを求める訴訟においては、各原告が訴えで主張する利益は全員に共通であるとはいえず、控訴の提起の手数料の額は、右利益によって算定される訴訟の目的の価額とみなされる九五万円を合算した額に応じて算出すべきである。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/486/062486_hanrei.pdf

一 記録によれば、原審裁判長は、抗告人らを含む二〇七名の者が原審に提出した広島地裁平成一一年(行ウ)第一七号同年一一月二九日判決に対する控訴状につき、右控訴提起の手数料は五三万一四五〇円であると認められるのに、印紙六一五〇円のみがちょう付されていたので、控訴人全員に対し残額五二万五三〇〇円の追納を命じたところ、控訴人のうちJ、K及びLの三名分として一万三八〇〇円の追納があったが、その余の控訴人二〇四名の分については右六一五〇円が全員の分であるとして追納がなかったため、右控訴状のうち右二〇四名に係る部分を却下する命令をした。抗告人らは、右命令に対して抗告をし、右控訴提起に係る訴えで主張する利益が控訴人ら全員の各請求について共通であり、右訴訟の目的の価額は、民事訴訟費用等に関する法律(以下「費用法」という。)四条二項、一項、民訴法九条一項により、右二〇四名全員につき九五万円とみなされるから、控訴提起の手数料は六一五〇円で足りていると主張する。

二 訴えや控訴の提起の手数料の算出の基礎となる「訴訟の目的の価額」は、「訴えで主張する利益」によって算定し、一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とするのが原則であるが、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、右の合算をしないものとされている(費用法四条一項、民訴法八条一項、九条一項)。したがって、現行法の採用している手数料制度の下においては、多数の者が共同して訴えを提起した場合においても、原則として各原告の主張する利益によって算定される額を合算して訴訟の目的の価額を算定し、費用法別表第一に従って、手数料の額を算出することになる。

もっとも、同表が訴訟の目的の価額が増大するほどこれに対応する手数料の負担割合を逓減する仕組みを採用していることにより、多数の者が共同して訴えを提起する場合には、各原告ごとにみれば、単独で同じ訴えを提起する場合に比べて、低額の手数料を負担することで足りる。そして、例外的に、共同原告がその訴えで主張する利益が共通であると認められる場合には、右の合算が不要となり、共同原告が何名であっても、全員で一名分の手数料のみを負担すればよいことになる。

三 本件訴訟は、抗告人らを含む二四五名が共同原告となって、相手方を被告とし、相手方が森林法一〇条の二に基づいて平成一〇年一二月四日付けで有限会社Gポートリーに対してした林地開発行為の許可処分(「本件処分」)の取消しを求めるものである。

訴状によれば、原告らは、右開発行為により、許可区域周辺の水質の悪化、水量の変化、大気汚染、その他の環境悪化を生じ、許可区域周辺に居住する原告らの水利権、人格権、不動産所有権等が害されるおそれがあるところ、本件処分には、同条二項所定の不許可事由があるのにされたという実体上の違法に加え、原告らの同意を得ないでされたという手続上の違法があるから、その取消しを求めるなどと主張している。
【要旨】これによると、本件訴訟において原告らが訴えで主張する利益は、本件処分の取消しによって回復される各原告の有する利益、具体的には水利権、人格権、不動産所有権等の一部を成す利益であり、その価額を具体的に算定することは極めて困難というべきであるから、各原告が訴えで主張する利益によって算定される訴訟の目的の価額は九五万円とみなされる(費用法四条二項)。そして、これらの利益は、その性質に照らし、各原告がそれぞれ有するものであって、全員に共通であるとはいえないから、結局、本件訴訟の目的の価額は、各原告の主張する利益によって算定される額を合算すべきものである。

そうすると、訴えを却下した一審判決に対する本件控訴の手数料の額は、右合算額に応じて費用法別表第一の一項により算出される訴えの提起の手数料額を基として、その一・五倍の額の二分の一の額となる(同二項、四項)。したがって、原審裁判長のした前記追納命令及び前記控訴状却下命令(原命令)は、費用法及び民訴法の規定にのっとったものであって、適法である。

なお、抗告人らは右のような解釈は多数の住民が共同して提訴ないし控訴することを困難にするものであるというが、本件において、各原告は、単独で控訴をする場合には六一五〇円の手数料を負担しなければならないところ、共同して控訴したことにより、右の合算をした上で前記の逓減がされる結果、約二五六七円の手数料を負担すれば足りるのであって、右の所論は当たらない。論旨は採用することができない。