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強制執行の申立てをした債権者が債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することの許否(消極)

 令和2年4月7日最高裁判所第三小法廷判決

裁判要旨    
強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されない。
(補足意見がある。)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/456/089456_hanrei.pdf

1 被上告人は,上告人らに対して第1審判決別紙物件目録記載3の建物の一部(「本件建物部分」)の明渡しを命ずる仮執行の宣言を付した判決に基づく強制執行について,民事執行法42条1項に規定する強制執行の費用で必要なものに当たる合計161万3244円の費用(「本件執行費用」)を支出した。

本件は,被上告人が,本件執行費用を上告人らによる本件建物部分の占有に係る共同不法行為による損害として主張して,上告人らに対し,不法行為に基づき,上記161万3244円及びこの請求に係る弁護士費用相当額16万1324円の合計177万4568円並びにこれに対する遅延損害金の連帯支払等を求める事案である。

2 原審は,被上告人の上記の主張に理由があると判断して,上記連帯支払を求める請求を認容すべきものとした。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。 

民事執行法は,強制執行の費用で必要なものを債務者の負担とする旨を定め(42条1項),このうち同条2項の規定により執行手続において同時に取り立てられたもの以外の費用については,その額を定める執行裁判所の裁判所書記官の処分(「費用額確定処分」)を経て,強制執行により取り立て得ることとしている(同条4項ないし8項,22条4号の2)。また,同法42条1項にいう強制執行の費用の範囲は,民事訴訟費用等に関する法律(「費用法」)2条各号においてその費目を掲げるものとされ,その額は,同条各号に定めるところによるとされている。

このように,費用法2条が法令の規定により民事執行手続を含む民事訴訟等の手続の当事者等が負担すべき当該手続の費用の費目及び額を法定しているのは,当該手続に一般的に必要と考えられるものを定型的,画一的に定めることにより,当該手続の当事者等に予測できない負担が生ずること等を防ぐとともに,当該費用の額を容易に確定することを可能とし,民事執行法等が費用額確定処分等により当該費用を簡易迅速に取り立て得るものとしていることとあいまって,適正な司法制度の維持と公平かつ円滑なその利用という公益目的を達成する趣旨に出たものと解される。

そうすると,強制執行においてその申立てをした債権者が当該強制執行に要した費用のうち費用法2条各号に掲げられた費目のものについては,民事執行法42条2項により債務者から執行手続において取り立てるほかは専ら費用額確定処分を経て取り立てることが予定されているというべきであって,これを当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において損害として主張し得るとすることは上記趣旨を損なうこととなる。
したがって,強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち費用法2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないと解するのが相当である。
本件執行費用は,費用法2条各号に掲げられた費目の費用に該当するから,上告人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求においてこれを損害とする被上告人の主張は許されず,当該主張に理由があるとした原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。

4 以上によれば,原判決中,上告人ら敗訴部分のうち,上告人らに対し161万3244円(本件執行費用)及びこの請求に係る弁護士費用相当額16万1324円の合計177万4568円並びにこれに対する平成26年4月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求に関する部分は破棄を免れない。

そして,以上に説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,このうち,上記177万4568円の連帯支払を求める請求に関する部分については,第1審判決を取り消し,被上告人の請求をいずれも棄却し,原審における追加請求である上記177万4568円に対する平成26年4月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求に関する部分については,被上告人の請求をいずれも棄却すべきである。
なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。