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国家賠償法二条一項による営造物の設置または管理のかしに基づく国および公共団体の損害賠償責任については、過失の存在を必要としない。

 昭和45年8月20日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
一、国道に面する山地の上方部分が崩壊し、土砂とともに落下した直径約一メートルの岩石が、たまたま該道路を通行していた貨物自動車の運転助手席の上部にあたり、その衝撃により、助手席に乗つていた者が即死した場合において、従来右道路の付近ではしばしば落石や崩土が起き、通行上危険があつたにもかかわらず、道路管理者において、「落石注意」の標識を立てるなどして通行車に対し注意を促したにすぎず、道路に防護柵または防護覆を設置し、危険な山側に金網を張り、あるいは、常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石を除去し、崩土のおそれに対しては事前に通行止めをするなどの措置をとらなかつたときは、通行の安全性の確保において欠け、その管理にかしがあつたものというべきである。
二、国家賠償法二条一項による営造物の設置または管理のかしに基づく国および公共団体の損害賠償責任については、過失の存在を必要としない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/103/054103_hanrei.pdf

国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないと解するを相当とする。

ところで、原審の確定するところによれば、本件道路(原判決の説示する安和より海岸線に沿い長佐古トンネルに至る約二〇〇〇メートルの区間)を含む国道五六号線は、一級国道として高知市方面と中村市方面とを結ぶ陸上交通の上で極めて重要な道路であるところ、本件道路には従来山側から屡々落石があり、さらに崩土さえも何回かあつたのであるから、いつなんどき落石や崩土が起こるかも知れず、本件道路を通行する人および車はたえずその危険におびやかされていたにもかかわらず、道路管理者においては、「落石注意」等の標識を立て、あるいは竹竿の先に赤の布切をつけて立て、これによつて通行車に対し注意を促す等の処置を講じたにすぎず、本件道路の右のような危険性に対して防護柵または防護覆を設置し、あるいは山側に金網を張るとか、常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石があるときは、これを除去し、崩土の起こるおそれのあるときは、事前に通行止めをする等の措置をとつたことはない、というのである。

そして、右の原審の認定は、挙示の証拠関係に照らして、是認することができる。

かかる事実関係のもとにおいては、本件道路は、その通行の安全性の確保において欠け、その管理に瑕疵があつたものというべきである旨、本件道路における落石、崩土の発生する原因は道路の山側の地層に原因があつたので、本件における道路管理の瑕疵の有無は、本件事故発生地点だけに局限せず、前記二〇〇〇メートルの本件道路全般についての危険状況および管理状況等を考慮にいれて決するのが相当である旨、そして、本件道路における防護柵を設置するとした場合、その費用の額が相当の多額にのぼり、上告人県としてその予算措置に困却するであろうことは推察できるが、それにより直ちに道路の管理の瑕疵によつて生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできないのであり、その他、本件事故が不可抗力ないし回避可能性のない場合であることを認めることができない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認することができる。

してみれば、その余の点について判断するまでもなく、本件事故は道路管理に瑕疵があつたため生じたものであり、上告人国は国家賠償法二条一項により、上告人県は管理費用負担者として同法三条一項により損害賠償の責に任ずべきことは明らかである。

原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定またはこれに基づく正当な判断を非難するに帰し、採用することができない。