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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

牽連犯を構成する二罪の中間に別罪の確定裁判が介在する場合と刑法五四条の適用

 昭和44年6月18日最高裁判所大法廷判決

裁判要旨    
一 牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法五四条の適用がある。
二 自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、偽造公文書行使罪を構成しない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/894/050894_hanrei.pdf

 

検察官の上告趣意について。

原判決は、第一審判決が認定した被告人の判示第一(1)の行為、すなわち昭和四〇年一月二八日有印公文書である福岡県公安委員会作成名義の大型自動車運転免許証一通を偽造した事実と、同判示第一(2)の各行為、すなわち昭和四二年一〇月二二日から同年一二月一日までの間一九回にわたり、タクシー運転手として営業用普通自動車を運転した際右偽造運転免許証を携帯行使した事実との中間に、昭和四一年一月二六日宣告、同年二月一〇日確定の窃盗、有印私文書偽造、同行使罪による懲役一年の確定裁判があるにもかかわらず、前記有印公文書偽造罪と各回行使罪とを牽連犯として、最も重い昭和四二年一二月一日の偽造公文書行使罪の刑により処断した第一審判決を是認して、牽連犯の中間に別罪の確定裁判が介在してもなお科刑上一罪として処断すべきであると判断しているのであるから、右判断は所論引用の各高等裁判所判例と相反するものといわなければならない。

しかしながら、牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪とは、本来数罪として広義の併合罪に包含されるが、科刑上の一罪として罪数上は本来の一罪と同様に取り扱われ、刑法四五条の適用については数罪ではなく一罪であると解することに文理上支障はない。

そして、牽連犯はその数罪間に罪質上通例その一方が他方の手段または結果となる関係があり、しかも具体的に犯人がかかる関係においてその数罪を実行した場合(昭和二四年一二月二一日大法廷判決)に科刑上とくに一罪として取り扱うこととしたものであるから、牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法五四条の適用があるものと解するのが相当である。これと同旨の原判決は正当であり、論旨引用の各高等裁判所判例はこれを変更すべきものと認める。

ところで、職権をもつて調査するに、本件偽造公文書行使の各事実は、前記のように、被告人が自動車を運転した際に偽造にかかる運転免許証を携帯していたというものであるところ、偽造公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用か具体的に侵害されることを防止しようとするものであるから、同罪にいう行使にあたるためには、文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におくことを要するのである。

したがつて、たとい自動車を運転する際に運転免許証を携帯し、一定の場合にこれを提示すべき義務が法令上定められているとしても、自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、未だこれを他人の閲覧に供しその内容を認識しうる状態においたものというには足りず、偽造公文書行使罪にあたらないと解すべきである。

したがつて、被告人が自動車運転に際し偽造運転免許証を携帯した事実を認定しただけで、ただちに偽造公文書行使罪にあたるものとした第一審判決およびこれを是認した原判決は、法令の解釈適用を誤り、被告人の各行為が本件訴因の限度では罪とならないのに、これを有罪とした違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。

そして、記録によれば、被告人が昭和四二年一二月一日に本件偽造運転免許証を警察官に提示した事実も窺われるので、これらの点につき更に審理を尽くさせるため、原判決および第一審判決を破棄し、本件を第一審裁判所である福岡地方裁判所に差し戻すこととする。

よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、主文のとおり判決する。