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東京都公文書の開示等に関する条例七条に基づいてされた公文書の非開示決定が理由付記の要件を欠き違法であるとされた事例

 平成4年12月10日最高裁判所第一小法廷判決

裁判要旨    
東京都公文書の開示等に関する条例五条に基づき「個人情報実態調査に関して警視庁から入手、取得した一切の文書」の開示の請求をした者に対する非開示決定の通知書に、非開示の理由として、「東京都公文書の開示等に関する条例第九条第八号に該当」と記載されているにすぎないときは、右決定は、同条例七条四項の定める理由付記の要件を欠き、違法である。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/308/065308_hanrei.pdf

原審の適法に確定したところによれば、被上告人は上告人に対して、平成元年八月二三日、東京都公文書の開示等に関する条例(「本条例」)五条に基づき、「個人情報実態調査に関して警視庁から入手、取得した一切の文書」の開示を請求したところ、上告人は、右開示請求の対象となっている文書は警視庁から提出された「個人情報保護対策の検討について」と題する文書(「本件文書」)であるとした上、被上告人に対し、「東京都公文書の開示等に関する条例第九条第八号に該当」との理由を付した同年九月五日付けの書面により、本件文書は開示しない旨を通知したというのである。

本条例七条四項は、実施機関が開示の請求に係る公文書を開示しない旨の決定をする場合には、その通知書に非開示の理由を付記しなければならない旨を規定している。一般に、法令が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである(最高裁昭和三八年五月三一日第二小法廷判決)。

本条例が右のように公文書の非開示決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは、同条例に基づく公文書の開示請求制度が、都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的とするものであって、実施機関においては、公文書の開示を請求する都民の権利を十分に尊重すべきものとされていること(本条例一条、三条参照)にかんがみ、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してそのし意を抑制するとともに、非開示の理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。

このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、公文書の非開示決定通知書に付記すべき理由としては、開示請求者において、本条例九条各号所定の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、本条例七条四項の要求する理由付記としては十分でないといわなければならない。

この見地に立って本条例九条八号をみるに、同号は、開示の請求に係る公文書に、

「監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未発表の学術研究成果、用地買収計画その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、大学の教育若しくは研究の自由が損なわれるおそれがあるもの、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」

に該当する情報が記録されているときは、当該請求に係る公文書の開示をしないことができるとするものである。

公文書の開示の請求は、開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事項を記載した請求書を提出してしなければならないとされている(本条例六条三号)ので、当該公文書の非開示理由として本条例九条八号に該当する旨の記載のみによって、開示請求者において、当該公文書の種類、性質あるいは開示請求書の記載に照らし、非開示理由が同号所定のどの事由に該当するのかをその根拠とともに了知し得る場合があり得るとしても、同号に該当する旨の記載だけでは、開示請求者において、非開示理由がいかなる根拠により同号所定のどの事由に該当するのかを知り得ないのが通例であると考えられる。

これを本件についてみるに、被上告人によって前示のとおり特定された本件文書の種類、性質等を考慮しても、本件付記理由によっては、いかなる根拠により同号所定の非開示事由のどれに該当するとして本件非開示決定がされたのかを、被上告人において知ることができないものといわざるを得ない。

そうであるとすれば、単に「東京都公文書の開示等に関する条例第九条第八号に該当」と付記されたにすぎない本件非開示決定の通知書は、本条例七条四項の定める理由付記の要件を欠くものというほかはない。
 したがって、この点に関する原審の判断は是認することができ、論旨は採用することができない。