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上告理由を発見するためには常日頃から最高裁判例を読む習慣が有効:弁護士中山知行/富士市/TEL0545-50-9701

 国家賠償と賠償責任の負担者

 昭和46年9月3日最高裁判所第二小法廷判決

裁判要旨    
公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行なうについて、故意または過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国がその被害者に対し賠償の責に任ずるのであつて、本件のような事実関係(判決理由参照)のもとにおいては、公務員個人は被害者に対して直接その責任を負うものではない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/045/062045_hanrei.pdf

 

 上告人の上告理由第一点および第二点について。
上告人の本訴請求は、上告人は当時仙台高等裁判所に係属中の上告人に対する有価証券偽造等被告事件の無罪を主張するため、その捜査に当たつた検察官六名を公務員職権濫用罪により告訴したところ、当時札幌高等検察庁検事長の職にあつた被上告人が、他の検察首脳と共同して、上告人のした告訴について、その事件処理を故意に遷延させたため、前記被告事件について上告人をして有罪判決を受けるの已むなきに至らしめ、よつて上告人に対し違法に財産上および精神上の損害を被らしめたから、被上告人に対し右損害の賠償を求めるというのである。

しかし、公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行なうについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国がその被害者に対し賠償の責に任ずるのであつて、本件のような事実関係のもとにおいては、公務員個人は被害者に対して直接その責任を負うものではないと解するのが相当である。それゆえ、原判決(その引用する第一審判決を含む。)が、右と同趣旨の理由によつて上告人の本訴請求を排斥した判断は、正当として是認することができる。

上告理由第一点は、原判決の解釈は、憲法一四条一項に違反すると主張するが、その実質は、単なる法律解釈の誤りを主張するに過ぎないものである。そして、右所論および上告理由第二点は、いずれも、公務員個人の責任に関し、右と異なる独自の見地に立つて、原判決を非難するものであり、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。